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2023.06.19 病原体

カルバペネム系抗菌薬は、最初の一手あるいは最終手段と心得よ―若手医師のための抗菌薬攻略法 著者:渡辺 彰

 

◇考え方の基本

カルバペネム系抗菌薬(以下、カルバペネム系薬)は、抗菌活性が格段に強くて抗菌スペクトラムが広いことから、その使用には十分な注意が必要であり、安易な選択や長期にわたる使用は避けるべきです。重症例に使うことが多いこともあって副作用が出やすく、抗菌活性が強いゆえに常在細菌叢をかく乱しやすいのです。長期の使用でカルバペネム系薬に耐性の菌が増えたら、その後に使う抗菌薬はほとんどなくなります。使うのは、重症例で原因菌不明例への最初の一手か、他系統の抗菌薬が無効あるいは投与が不可能な場合の最終手段として、であり、その後には手立てがほとんどないことをあらかじめ考えておかなければなりません。カルバペネム系薬には性格の異なる複数の薬剤があるので、使い分けも必要ですし、投与後に十分な効果が得られたら早めにディエスカレーションを考えていきましょう。

◇カルバペネム系薬の構造と開発の経緯

カルバペネム系薬は、β-ラクタム環に隣接する5員環であるペネム骨格の硫黄原子(S)がメチレン基(-CH2-)に置換された構造を持ち、強力な抗菌活性を示します。最初に実用化されたのは1987年のイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)であり、CSはIPMの代謝を阻害する役目を持っています。1993年に実用化されたパニペネム/ベタミプロン(PAPM/BP)のBPはPAPMの腎毒性を軽減する役目を持っており、この2剤はグラム陽性菌の側に強い抗菌力を示します。その後、これらの配合剤を必要としないカルバペネム系薬が開発され、1995年にメロペネム(MEPM)、2002年にビアペネム(BIPM)、2005年にドリペネム(DRPM)が実用化されました。これらはグラム陰性菌に強い抗菌力を示し、後者ほど緑膿菌に対して強力です。2009年にはエステル化されたプロドラッグ型のテビペネム ピボキシル(TBPM-PI)が経口剤として実用化されています。TBPM-PIの得意な標的は、小児感染症で問題となっているペニシリン耐性肺炎球菌、マクロライド耐性肺炎球菌およびインフルエンザ菌などです。さらに2021年には、新規β-ラクタマーゼ阻害薬のレレバクタムをIPM/CSに配合したレレバクタム/イミペネム/シラスタチン(REL/IPM/CS)が実用化されており、カルバペネム系薬に耐性のグラム陰性菌(緑膿菌を含む)が主な標的となっています。

◇カルバペネム系薬の作用機序

カルバペネム系薬はβ-ラクタム系薬の一員ですから、ペニシリン系薬やセフェム系薬と同じく細菌のペニシリン結合蛋白(PBP)に結合しますが、その親和性が極めて高く、強力な抗菌活性を発揮します。また、セフェム系薬がPBPの中でもPBP3に作用して隔壁合成を抑え、菌体をフィラメント化して溶菌させるのに対し、カルバペネム系薬は種々のPBPへの親和性が高く、一方で薬剤ごとに各PBPへの親和性が少しずつ異なるので作用機序も各剤各様であり、前項に示したように得意とする菌種が異なってきます。

◇カルバペネム系薬の体内動態

カルバペネム系薬は主に腎から排泄されます。腎機能低下例では血中濃度の半減期が延長します。このような場合、濃度依存型に抗菌効果を発揮するアミノグリコシド系薬では投与間隔を空けることで対処できますが、カルバペネム系薬を含むβ-ラクタム系薬は時間依存型の薬剤ですから、むやみに間隔を空けるわけにはいきません。有効な血中濃度を維持することが必要ですから、投与量の減量で対処することも考えます。また、合剤であるIPM/CSやPAPM/BPでは、互いの薬剤の体内動態が異なります。腎機能の低下例ではその影響が強く出て体内動態が互いに大きく異なることになり、投与設計が困難となりますが、MEPMやBIPM、DRPMは単剤ですから投与設計は容易です。

◇カルバペネム系薬の耐性動向

カルバペネム系薬耐性の機序は主に、カルバペネマーゼによる加水分解、グラム陰性菌の外膜透過性の低下、薬剤排出ポンプです。カルバペネマーゼでは、IMP型やVIM型、NDM型などのメタロβ-ラクタマーゼ(MBL)やKPC型(欧米で多い)、OXA型などの新しい型も報告され、広がりを見せています。菌種別では、大腸菌を始めとした腸内細菌においてカルバペネム系薬に非感受性の株が報告されており、こうしたカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)の増加傾向は要注意です。一方、緑膿菌では耐性の広がりは顕著ではないものの、カルバペネム耐性を含む多剤耐性緑膿菌(MDRP)が分離される医療機関は多くなっています。ただ、その分離頻度には地域・病院間でかなり差があるので、所属施設のアンチバイオグラムなどを参考にしましょう。

◇カルバペネム系薬が第一選択となるのは?

カルバペネム系薬の適応疾患は、呼吸器感染症、腹腔内感染症、尿路性器感染症、皮膚軟部組織感染症など幅広く、グラム陽性から陰性の好気性菌並びに嫌気性菌に対して幅広い抗菌スペクトラムを持ち、抗菌作用は極めて強力で殺菌的です。しかし、最初にも述べたように、カルバペネム系薬の出番は、重症例で原因菌不明例への最初の一手か、他系統の抗菌薬が無効あるいは投与が不可能な場合にほぼ限られます。カルバペネム系薬の安易かつ長期の使用は副作用が出やすくなるだけでなく、耐性を拡げることにつながり、最終手段をほぼ失うことを意味します。十分に検討してから選択・使用しましょう。

◇カルバペネム系薬が無効な菌は?

カルバペネム系薬が無効な菌種も押さえておきましょう。それは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、ステノトロフォモナス・マルトフィリア、腸球菌、クロストリディオイデス・ディフィシル、レジオネラ・ニューモフィラ、抗酸菌、マイコプラズマ、クラミドフィラ、リケッチアなどです。

◇最後に

以上みてきたように、カルバペネム系薬の適応は重症例で原因菌不明例への最初の一手か、他系統の抗菌薬が無効あるいは投与が不可能な場合ですが、最初の一手として使って幸いに良い結果を得た場合には、次にディエスカレーションを考えましょう。最後の一手として使って良い結果を得た場合には、性急にディエスカレーションするのではなく、副作用に配慮しがら十分に使った上でディエスカレーションを考えましょう。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)


〔出典〕
ヴァンメディカル2023年刊行予定書籍「若手医師のための 困った時の抗菌薬攻略本」(渡辺 彰/著)より

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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