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2023.06.12 病原体

セフェム系抗菌薬は、世代を使いこなせ―若手医師のための抗菌薬攻略法 著者:渡辺 彰

 

◇考え方の基本

セフェム系抗菌薬(以下、CEP薬)は構造上、修飾可能部位がペニシリン系抗菌薬(以下、PC薬)より一つ多く、様々な修飾によって多彩なCEP薬が実用化され、抗菌薬としては最も多数からなるファミリーを形成しています。ですから、その抗菌活性や抗菌スペクトラム、体内動態、および開発の方向性の変遷を加味して世代分類が行われています。臨床では、その世代分類をよく知ることでCEP薬の使い分けが可能になります。大まかに第1世代薬、第2世代薬、第3世代薬に分けますが、開発の方向性はその順でグラム陽性菌重視からグラム陰性菌重視へ変わると共に、β-ラクタマーゼに対する安定性も強くなり、一部の第3世代薬では緑膿菌に対する強い抗菌力も得られています。世代の進歩に伴って長時間の血中濃度が実現される薬剤もあるなど、体内動態の面でも進歩が見られていますから、使い分け/使いこなしが重要です。

◇CEP薬の構造と開発の方向性

CEP薬は、抗菌活性の本体であるβ-ラクタム環に6員環の7-アミノセファロスポリン酸(7-ACA)が接合する構造を持ち、β-ラクタム環と共にこの7-ACAにも修飾可能部位があることから様々な薬剤が生み出されてきました。最初のCEP薬は1964年に実用化されたセファロチン(CET)であり、多くのグラム陽性菌と一部のグラム陰性菌に抗菌活性を示します。CETは第1世代薬に属しますが、第1世代薬の代表は我が国で創成されたセファゾリン(CEZ)です。CEZはグラム陰性菌に対する抗菌力がCETより強く、体内動態の改善で血中半減期も長くなっていますが、セファロスポリン分解酵素のセファロスポリナーゼには不安定です。

1970年代以降に実用化されたのが第2世代薬です。その代表は国産のセフォチアム(CTM)であり、グラム陽性菌への抗菌力は第1世代薬と同等ですが、グラム陰性菌への抗菌力が強くなっており、併せてセファロスポリナーゼにも安定性を増しました。ただ、インフルエンザ菌で多くなっているBLNAR(β-ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性)菌には要注意です。なお、第2世代薬には、セファマイシン系薬のセフメタゾール(CMZ)とオキサセフェム系薬のフロモキセフ(FMOX)も含まれます。いずれも国産です。

第3世代は1980年代以降に実用化されており、セファロスポリナーゼにはさらに安定となりましたが、他世代薬と同様に基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)には不安定です。筆者は第3世代を3つに群別しています。第1群は抗緑膿菌活性の強化されたセフタジジム(CAZ)が代表ですが、グラム陽性菌への抗菌力はむしろ低下しています。この群にはオキサセフェム系薬のラタモキセフ(LMOX)も含まれます。第2群は、抗緑膿菌活性は期待できないもののグラム陰性菌に対する抗菌活性が強力であり、併せて肺炎球菌などのグラム陽性菌にも抗菌活性を有するグループであり、セフォタキシム(CTX)が代表です。この第2群には、血中濃度の持続が長くて1日1回投与も可能なセフトリアキソン(CTRX)も含まれます。1990年代以降に実用化された第3群は、第1群と第2群の特長を併せ持つグループであり、セフェピム(CFPM)が代表です。緑膿菌をも含めてグラム陽性から陰性まで広くて強い抗菌活性を示しますから、これを第4世代と分類する向きもあり、原因菌未確定の好中球減少時の発熱(FN:febrile neutropenia)などにも用いられますが、やはりESBLには不安定です。なお、各世代共に経口薬も実用化されています。

◇CEP薬の作用機序と体内動態

CEP薬はβ-ラクタム系薬の一員ですから、ペニシリン系薬やカルバペネム系薬と同じく細菌のペニシリン結合蛋白(PBP)に結合します。CEP薬はPBPの中でも特にPBP3に対する親和性が高く、PBP3の役目である隔壁合成を抑えますから、菌体が分裂せずに伸長してフィラメント化し、溶菌に至ります。CEP薬の多くは未変化体で腎から排泄されます。腎機能低下例では血中濃度の半減期が延長します。このような場合、濃度依存型に抗菌効果を発揮するアミノグリコシド系薬では投与間隔を空けることで対処できますが、CEP薬を含むβ-ラクタム系薬は時間依存型の薬剤ですから、むやみに間隔を空けるわけにはいきません。有効な血中濃度を維持することが必要ですから、投与量の減量で対処することも考えます。CEP薬の中でもCTRXとセフォペラゾン(CPZ)は、例外的に蛋白結合率が高くて肝胆道系からの排泄が多く、血中濃度が比較的長く持続します。

◇CEP薬の耐性動向

CEP薬の耐性の機序は、①β-ラクタマーゼによる加水分解、②グラム陰性菌の外膜透過性の低下、③薬剤排出ポンプ、④作用点のPBPの変異、の4つです。グラム陽性菌における耐性化はほとんどが④の機序によりますが、グラム陰性菌では①~④の複数の機序で起こり、その中でも①のβ-ラクタマーゼによる加水分解が最大です。β-ラクタマーゼの分類は「β-ラクタマーゼ阻害薬」の項に詳しく紹介しましたが、Amblerの分類のクラスAに属するペニシリナーゼがペニシリナーゼという名称でも一部のCEP薬を加水分解することは覚えておかなければなりません。また、近年急増中なのが、クラスAに属して広範囲のセファロスポロリン薬を分解するESBL(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)であり、特に大腸菌ではキノロン耐性をも示す株が多くなっています。その他、クラスBはメタロβ-ラクタマーゼとも言い、ほぼすべてのβ-ラクタム系薬を分解する強力なβ-ラクタマーゼですし、クラスCは、セファマイシン系薬を含むCEPを分解するセファロスポリナーゼです。ただし、これらの分離頻度には地域・病院間で差があるので、所属施設のアンチバイオグラムなどを参考にしましょう。

◇CEP薬が第一選択となるのは?

CEP薬が第一選択薬あるいは第二選択薬となる場面を疾患別に考えてみましょう。肺炎球菌やインフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスが原因菌として多い中耳炎・副鼻腔炎の経口薬治療では、アモキシシリン(AMPC)もしくはクラブラン酸/アモキシシリン(CVA/AMPC)が第一選択ですが、第3世代CEP薬に属するセフジトレン・ピボキシル(CDTR-PI)とセフカペン・ピボキシル(CFPN-PI)が第二選択となります。重症例では高用量投与を心がけます。

基礎疾患のない~軽微な細菌性気道感染症ではやはり上記の3菌種が原因菌として多く、β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤と並んで前述の第3世代CEP薬を選び、中等症以上ではそれらに相応する注射薬を選択します。市中肺炎例でも上記の3菌種が原因菌として多く、第3世代第2群のCTRXあるいはCTXを選択し、外来治療可能な軽症例では前述の第3世代CEP薬を選択します。院内肺炎や医療・介護関連肺炎では、入院・入所後早期では市中肺炎と同じ選択を行い、それ以外の多くの例では第3世代第3群(いわゆる第4世代)を選ぶこともありますが、ESBL産生菌や緑膿菌の関与が多くなるので選択には注意が必要です。

発熱性好中球減少症では、カルバペネム薬やタゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)と共にセフェピム(CFPM)が選択の上位です。一方、細菌性髄膜炎では、最大の原因菌である肺炎球菌の最小発育阻止濃度(MIC)がペニシリン系薬(PC薬)やCEP薬では上昇傾向にあり、第一選択はカルバペネム系薬とバンコマイシン(VCM)になってきています。胆道系感染症では近年、原因菌として多い大腸菌その他の腸内細菌でESBL産生菌が増加しており、その重症例ではカルバペネム系薬を選択すべき状況になっており、CEP薬の選択順位は下がってきました。腹膜炎では、胆道系感染症の原因菌に加えて嫌気性菌や緑膿菌(特に術後の腹膜炎で)の関与が多くなっています。軽症~中等症では嫌気性菌にも有効なセフメタゾール(CMZ)を選ぶか、CTRX+メトロニダゾール(MNZ)を選びます。耐性菌リスクが高ければCFPMを考慮しますが、胆道系感染症と同じくESBL産生菌増加の状況を考慮しなければなりません。

閉経前の膀胱炎では、第一選択のキノロン系薬に続く第二選択が経口CEP薬ですが、閉経後ではキノロン耐性大腸菌の関与が多いので、第一に経口CEP薬を考えます。腎盂腎炎も同様ですが、重症例では高世代CEP薬を選びます。尿路に基礎疾患を持つ複雑性尿路感染症や敗血症を伴う尿路感染症では、高世代CEP薬を選びますが、ESBL産生菌の問題はここでも同様です。皮膚軟部組織感染症では黄色ブドウ球菌や化膿性連鎖球菌が多く、経口薬の投与が可能な軽症例では第一世代のセファレキシン(CEX)やセファクロル(CCL)が選ばれ、注射剤の投与が必要な場合はCEZが選ばれます。

◇最後に

以上見てきたように、CEP薬には多彩な薬剤が揃い、適応疾患も多いことから、世代分類をしっかり把握し、それぞれの世代やグループの特長をきちんと押さえて使うようにしましょう。β-ラクタマーゼの状況も把握しておきましょう。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)


〔出典〕
ヴァンメディカル2023年刊行予定書籍「若手医師のための 困った時の抗菌薬攻略本」(渡辺 彰/著)より

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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