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2023.06.14 病原体

医療施設で気をつけたい麻疹(はしか)感染対策のポイント 著者:四宮 聡

 

現在(2023年6月1日時点)、国内で7例の麻疹が確認されています。麻疹は、感染力と事後対応の大変さから感染対策担当者が最も遭遇したくない感染症の一つです。ここでは、基本的な知識と事前にできうる準備、活用できる資料についてご紹介していきます。

■麻疹の特徴と感染力

麻疹は、潜伏期間約10~12日間(最大21日間)と長いのが特徴で、感染期間は症状が出る1日前から解熱後3日程度とされます(1)。感染から約10日後に風邪症状が3日程度続き、その後高熱と共に発疹が出現します。治療は対症療法のみで、すべての感染経路(空気、飛沫、接触)を持っています。非抗体保有者はほぼ100%感染し、1人が12~18名にうつすと報告されています。

■事前にできる準備と今すべきこと

全国で7名くらい…と思いたいのが人の心。しかし、インドでは半年で68,000人を超える麻疹が発生しています(2)。これらの方には、旅行や出張中に体調不良となり、受診することもあるでしょう。国内での発生を、明日は我が身と捉えておくことが麻疹対策の第一歩と考えます。

事前準備として最も大切なことは、ワクチンプログラムの構築です。記録に基づいたワクチン接種と抗体価測定を組み合わせ、「1歳以降で2回接種」または十分な抗体保有を把握しておくことです(3)。この時、検査結果の陽性基準と十分な抗体保有の値が異なる点に注意してください。ワクチンプログラムがあれば、あとは患者さんや接触者対応に対応するのみですが、そうでない場合は、就業制限やさらなる感染拡大に備える必要があります。

■活用できる資料

麻疹発生後、速やかな対応ができるよう資料を活用しましょう。一つは、医療機関での麻疹対応ガイドラインです(1)。網羅的に記載されており、発生前に熟読しておくことで準備と対応がイメージできます。もう一つはチェックリストです(4)。平時と発生時に分かれていますので、各項目を確認しておくことで漏れなく円滑な対応が期待できます。

■さいごに

風邪症状と発疹は麻疹を想定した対応ができるよう、広く啓発し、準備を進めましょう。

(著者:箕面市立病院 感染制御部 副部長 感染管理認定看護師 四宮 聡)

〔文献〕
(1)国立感染症研究所 感染症疫学センター:医療機関での麻疹対応ガイドライン第七版.https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/guideline/medical_201805.pdf(2023年6月6日アクセス)

(2)CDC:Global Measles Outbreaks .
https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html?fbclid=IwAR0pe7f8WT2MrTYznP0EIuokYLZsRsl0KTQ46ajnoiYsXd9jixnCnsDWnQs(2023年6月6日アクセス)

(3)一般社団法人 日本環境感染学会 ワクチン委員会:医療関係者のためのワクチンガイドライン第 3 版.
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/vaccine-guideline%EF%BC%BF03.pdf(2023年6月6日アクセス)

(4)国立感染症研究所:ガイドライン(医療機関)の参考資料ファイル 5.平常時・発生時の対策チェックリスト(Excel)https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/guideline/medical_form5.xlsx(2023年6月6日アクセス)

著者プロフィール

四宮 聡(しのみや さとし)

箕面市立病院 感染制御部 副部長 感染管理認定看護師

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