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2023.06.26 病原体

β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤は、耐性の種類で使い分ける~Amblerの分類を参照!―若手医師のための抗菌薬攻略法 著者:渡辺 彰

 

◇考え方の基本

β-ラクタマーゼに分解されやすいβ-ラクタム系薬では、対策が二つあります。β-ラクタマーゼに分解されない安定な化学構造のβ-ラクタム系薬を新規に開発する方法と、β-ラクタマーゼ阻害薬を開発して既存のβ-ラクタム系薬と配合する方法です。後者の場合、β-ラクタマーゼにはいくつかの種類があり、それに応じてβ-ラクタマーゼ阻害薬はいくつかに分かれます。まずはそれを整理しておきましょう。その際にはAmblerによるβ-ラクタマーゼの分類が大きな参考となります。

◇Amblerによるβ-ラクタマーゼの分類

Amblerの分類では、β-ラクタマーゼをクラスAからクラスDまでの4つにまず分類します。それぞれの活性中心は、クラスA、C、Dがセリン、クラスBは亜鉛です。クラスAはさらに、ペニシリン系薬(以下、PC薬)と一部のセフェム系薬(以下、CEP薬)を分解するペニシリナーゼ、広範囲のCEP薬を分解するESBL(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)、およびカルバペネム系薬を分解するカルバペネマーゼの3つに分かれます。クラスBは、メタロβ-ラクタマーゼとも言い、ほぼすべてのβ-ラクタム系薬を分解する強力なβ-ラクタマーゼです。クラスCはセファマイシン系薬を含むCEP薬を分解するセファロスポリナーゼであり、クラスDはPC薬とオキサシリン系薬およびカルバペネム系薬を分解するオキサシリナーゼです。

◇β-ラクタマーゼ阻害薬の分類

β-ラクタマーゼ阻害薬には現在、クラブラン酸(CVA)、スルバクタム(SBT)、タゾバクタム(TAZ)、レレバクタム(REL)の4つがあります。前3者はβ-ラクタム骨格を持つペニシリン類似の構造を持っています。CVAはクラスAのペニシリナーゼを阻害しますが、一部のセファロスポリナーゼをも阻害します。SBTもクラスAに対する阻害薬ですが、ペニシリナーゼ阻害作用はCVAやTAZより弱く、一方でCVAの作用が及ばないセファロスポリナーゼを阻害します。TAZもクラスAに対する阻害薬ですが、ペニシリナーゼとセファロスポリナーゼ及びESBLに対しても阻害作用を示します。ただ、これら3剤はメタロβ-ラクタマーゼを阻害することはできません。2021年に実用化されたRELは、肺炎桿菌を含む一部の腸内細菌目細菌が持つKPC型のカルバペネマーゼ、多くのクラス A 及びクラス Cのβ-ラクタマーゼに対して広範な阻害活性を示し、カルバペネム系薬のイミペネム/シラスタチンの弱点をちょうど補う形で配合されています(カルバペネム系薬の項を参照)。

◇β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤の種類

β-ラクタマーゼ阻害薬は多くの配合剤の形で実用化されています。CVAをアモキシシリン(AMPC)と1対2で配合した経口で成人用(オーグメンチン®)あるいは1対14で配合した経口で小児用(クラバモックス®)のCVA/AMPC、CVAをチカルシリン(TIPC)と1対14で配合した注射用のCVA/TIPC(オーグペニン®)、SBTをアンピシリン(ABPC)と1対2でトシル酸塩の形で結合させた経口用のトシル酸スルタミシリン(SBTPC、ユナシン®)および1対2で配合した注射用のスルバクタム/アンピシリン(SBT/ABPC;ユナシン®-S)、SBTをセフォペラゾン(CPZ)と1対1で配合したSBT/CPZ(スルペラゾン®)、TAZをピペラシリン(PIPC)と1対4で配合した注射用のTAZ/PIPC(タゾシン®)あるいは1対8で配合した注射用のTAZ/PIPC(ゾシン®)、TAZを新規抗菌薬のセフトロザン(CTLZ)と1対2で配合したTAZ/CTLZ(ザバクサ®)、IPM/CSに RELを2対2対1で配合したIPM/CS/REL(レカルブリオ®)です。

◇β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤が第一選択となるのは?

β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤の各薬剤は、厳密には投与対象の感染症の原因菌がβ-ラクタマーゼを産生している場合に適応となります。ただ、原因菌がβ-ラクタマーゼを産生していなくとも、病巣に併存している他の菌がβ-ラクタマーゼを産生している場合には間接的病原性が発揮される可能性があり、β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤を投与する理論的な意義が考えられます。ただ、その見極めは実際には困難です。また、成人用のオーグメンチン®では、CVAの量に比し配合されているAMPCの量が少ないため、同量のAMPC(サワシリン®)を併用投与するいわゆる「オグサワ処方」の方が効果は高いと考えられます。用量の多寡によって治療対象疾患が限定されることもあります。ユナシン®-Sの1日12gの高用量投与は肺炎・肺膿瘍・腹膜炎のみで認められており、同じくゾシン®の1日18gの高用量投与は肺炎・発熱性好中球減少症のみで認められています。また、ユナシン®-S等の後発品では適応菌種や適応疾患が限定されているものもあるので注意が必要です。ザバクサ®は、緑膿菌などに強い抗菌活性を含むCTLZにTAZを配合したことでESBL産生菌を含む腸内細菌にも幅広い抗菌活性があり、尿路感染症と腹腔内感染症が対象となりますが、腹腔内感染症の多くではメトロニダゾール注射用との併用が原則です。レカルブリオ®は、カルバペネム薬耐性を示す腸内細菌(カルバペネム耐性腸内細菌目細菌[CRE])および緑膿菌による比較的幅広い各種感染症に対して承認が得られたところですが、臨床における最も適切な使い方が今後定まっていくものと思います。

◇最後に

以上みてきたように、β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤を投与する場合は、投与対象の感染症の原因菌の産生するβ-ラクタマーゼの種類別に薬剤を選択することになりますが、β-ラクタマーゼは近年、新しい型のものが出現するなどしてますます広範囲かつ強力になってきています。ただ、原因菌を確実に診断できれば産生されているβ-ラクタマーゼの種類もほぼ特定され、選択すべきβ-ラクタマーゼ阻害薬配合剤もおのずと決まりますから、原因菌確定は以前にもまして重要です。同様に、各種のβ-ラクタマーゼ阻害薬の違いについてもよく知っておくことが求められます。筆者には、β-ラクタマーゼ阻害薬が実用化される前後、β-ラクタマーゼ阻害薬を単独のままで販売すればもっと自由な使い方ができ、適切なβ-ラクタマーゼ対策が取れるのではないか?と思ったことがありますが、不適切な使い方も広まってしまう可能性がもっと大きく、逆に耐性菌が増加する可能性もある、と考え直し、踏みとどまった思い出があります。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)


〔出典〕
ヴァンメディカル2023年刊行予定書籍「若手医師のための 困った時の抗菌薬攻略本」(渡辺 彰/著)より

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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