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2023.07.03 病原体

アミノグリコシド系抗菌薬は、併用するのが基本―若手医師のための抗菌薬攻略法 著者:渡辺 彰

 

◇考え方の基本

わが国のアミノグリコシド系抗菌薬(以下、AG薬)の使用量は多くはありません。AG薬が単独で第一選択薬となることが少ないからです。単独で第一選択となり得るAG薬は、ペストと野兎病に対してのゲンタマイシン(GM)あるいはストレプトマイシン(SM)くらいであり、他の抗菌薬と併用して使うのが基本です。その場合、治療対象とする原因菌を特定/想定して種々の中からAG薬を選択しますが、菌をいくつかに分類すると選ぶのが容易になります。後段で述べていきます。

◇AG薬の構造と有効な菌種

AG薬はアミノ基に置換された炭素6員環を持つ水溶性物質です。β-ラクタム系薬(ペニシリン系薬、セフェム系薬、カルバペネム系薬など)とは異なって細菌の細胞質内によく侵入し、16SリボソームRNAの30S サブユニットに不可逆的に結合することにより、蛋白合成を阻害する殺菌性の抗菌薬です。グラム陰性桿菌や抗酸菌、淋菌、原虫にはよく作用しますが、連鎖球菌などのグラム陽性菌や嫌気性菌には作用しません。

◇AG薬耐性菌は多くない

AG薬耐性の機序は多い順に、不活化酵素の産生、リボゾームの結合部位の変異、膜透過性の変化ですが、耐性菌の頻度は他の抗菌薬よりは少ないのが現状です。ただし、近年増加しているESBL産生菌やメタロβ-ラクタマーゼ産生菌などのグラム陰性桿菌は、β-ラクタム系薬だけでなくAG薬にも耐性を示すものが多くなっているので要注意です。

◇AG薬の体内動態の特徴

AG薬の血中濃度のピークは、静脈内投与では投与終了から30~60分後、筋注では30~90分後です。成人での血中濃度の半減期は1.5~3.5時間ですが、腎機能低下の程度に応じてこれが延長します。投与後には約99%が未変化体のまま尿中に排泄されます。すなわち、尿中への移行は良好で、血中濃度の25~100倍まで上昇します。しかし、中枢神経系へはほとんど移行しません。

◇AG薬は相手の菌別に5群に分ける

最初に実用化されたAG薬は1944年のSMであり、結核の治療薬として開発されました。AG薬の第1群はこの結核治療が主目的であり、他にカナマイシン(KM)があります。AG薬の第2群は、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌が相手です。GM、トブラマイシン(TOB)、アミカシン(AMK)、ジベカシン(DKB)、イセパマイシン(ISP)、フラジオマイシン(FRM)、リボスタマイシン(RSM)があり、KMもその目的で使われることがあります。第3群はグラム陰性双球菌の淋菌が相手のスペクチノマイシン(SPCM)です。第4群はグラム陽性球菌のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が相手のArbekacin(ABK)ですが、ABKは緑膿菌にも一定の抗菌力を示します(適応は未承認)。第5群は、原虫が相手のパロモマイシン(PRM)ですが、妊娠中のアメーバ赤痢やジアルジア症に対する時以外は選択順位が他剤より低くなります。

◇結核菌が相手の時はこう使う

以上、AG薬は5つの群に分けられますが、結核菌が相手の場合は厚生労働省の結核医療の基準および日本結核病学会(現 日本結核・非結核性抗酸菌症学会)のガイドライン(1)に準じて使います。結核症の治療法のA法(イソニアジド[INH]+リファンピシン[RFP]+ピラジナミド[PZA]+SMまたはエタンブトール[EB])に規定されているようにSMは併用で使いますが、PZAとSMおよびEBは最初の2ヵ月間のみ投与します。結核症の治療で多剤併用を行うのは、単独で十分な治療効果の期待できる薬剤が少ないからですが、それ以上に、病巣中の菌量がまだ多い治療初期に単独あるいは2剤程度の少数で治療すると薬剤耐性が起こりやすいので、第3、第4の薬剤を併用して耐性の発現を阻止するのが目的なのです。ある薬剤への耐性が生じても、併用している他の薬剤がこの耐性を抑えることができるからです。もちろん、AG薬は治療量と中毒量の間が広くはなく、腎毒性や聴器毒性などの副作用が出現することがあるので、それを防止するためにも安全性が確保できる投与量で使うことになります。KMは第2選択薬の位置づけとなっています。

なお、結核の治療に数ヵ月間という長期間を要するのは、ひとえに結核菌の性質によります。結核菌を含む病原細菌に対して抗菌薬が最も力を発揮するのは、細菌の細胞分裂の時です。細菌は、細胞分裂の最中は大変弱いのです。多くの細菌は条件が良ければ15~20分といった短時間で分裂を繰り返すのに対し、結核菌の1個から2個に分裂する時間(=世代時間)は条件が良くても12時間以上です。そうすると、抗菌薬が一日に作用する(=菌を叩く)回数は多くの細菌では70~100回なのに対し、結核菌ではせいぜい2回にしかなりません。ですから、結核の場合に6ヵ月の治療で結核菌が叩かれる回数は、多くの細菌が4~5日程度叩かれる回数と同じです。これが長期間を要する理由です。

◇併用の目的はもっとある

第2群でもっぱら使われるのはGM、TOB、AMK、DKBなどですが、やはり他剤との併用が基本です。その目的は、結核の治療で述べた項目に加えて、併用することで1+1=2以上の相乗的な抗菌作用が発揮されるからです。グラム陰性桿菌、特に緑膿菌では相乗作用が多く報告されており、AG薬とβ-ラクタム系薬(PC薬、CEP薬、カルバペネム系薬)の併用がよく行われます。第2群の薬剤を使い分ける時は、所属施設のアンチバイオグラムなどで耐性の分布を参考にしながら、腎毒性その他の副作用を勘案しながら使いましょう。

◇TDM(薬物血中濃度モニタリング)が大事

腎毒性その他の副作用はAG薬全般に見られますが、その程度には強弱があります。薬物血中濃度モニタリング(TDM)を行うことでその副作用を抑えることができますが、近年のTDMはその副作用のコントロール以上に、耐性の誘導を抑えながら有効性を向上させることに大きな意義があります。その意味で、AG薬でのTDM施行は極めて重要であり、特にAMK、GM、TOB、ABKを投与する際には励行したいものです。TDMが特に必要な疾患は感染性心内膜炎やグラム陰性桿菌感染症であり、TDMが特に必要な宿主は腎機能低下例,腎毒性のある薬剤との併用,造影剤を使用している患者,高齢者,長期投与例です。‌MRSA 感染症治療の目的でABKを投与する場合にもTDMが推奨されます。TDMを行う際には、ガイドライン(2)を参照しましょう。

◇AG薬の投与量は? 投与は1日1回投与か?分割投与か?

AG薬の投与量は、体重と腎機能を基に決めます。決めた投与量は、腎機能障害があっても初回は減量せず、2回目以降を腎機能障害の程度に応じて減量したり、腎機能障害が高度な場合はその程度に応じて投与間隔を開けたりします。投与が長期になる場合にはTDMを行いましょう。AG薬の投与は以前、1日2回などの分割投与が主流でしたが、現在は1日1回法が多くなっています。1日1回の方が臨床効果は同等あるいはそれ以上であり、副作用は同等以下だからです。すなわち、1日1回投与法での1回投与量は、2回分割法の場合の1回分の2倍の量となって血中濃度が高くなり、これによって臨床効果が高くなる一方で、次回投与直前の血中濃度(トラフ濃度)が十分に下がるために腎毒性などが弱まるからです。トラフ濃度があまり下がらない状態で次回の投与が始まると腎毒性などが強まります。この最高血中濃度とトラフ濃度を把握するためにもTDMを行うことは大変重要です。なお、腸球菌による心内膜炎では1日1回法の効果が劣るので分割で投与します。

◇最後に

以上みてきたAG薬の長所と短所を把握しつつ、相乗作用等を期待しての併用を基本としながら、各疾患の診療ガイドラインやTDMガイドラインを参照することで、AG薬による最大限の臨床効果および安全性を達成することが可能となります。

〔文献〕
(1)日本結核病学会 編:結核診療ガイドライン 改訂第3版.日本結核病学会,東京,2015,p1-129

(2)公益社団法人日本化学療法学会,一般社団法人日本TDM学会:抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022.日本化学療法学会誌 70 (1): 1-72, 2022

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)


〔出典〕
ヴァンメディカル2023年刊行予定書籍「若手医師のための 困った時の抗菌薬攻略本」(渡辺 彰/著)より

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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