◇考え方の基本
マクロライド系抗菌薬(以下、ML薬)は、副作用が少ないこともあってよく使われていますが、耐性化が進んでいることや14員環系ML薬には他剤との相互作用が多いことから、安易な選択と漫然たる使用は好ましくありません。ML薬が第一選択となる場合(対象疾患、原因菌種など)をきちんと押さえておきましょう。また、他系統の抗菌薬が第一選択であっても、種々の条件でそれが使えないときに第二選択としてML薬が使える場合も押さえておきましょう。
◇ML薬の構造と作用機序
ML薬は、メチル側鎖を持つ巨大ラクトン環が糖とグルコシド結合した化学構造を持ち、ラクトン環内の炭素原子数によって14員環系、15員環系、16員環系に分けられます。β-ラクタム系薬(ペニシリン系薬、セフェム系薬、カルバペネム系薬など)とは異なって細菌の細胞質内によく侵入し、16SリボソームRNAの50S サブユニットに可逆性に結合して蛋白合成を阻害する静菌性の抗菌薬です。
1952年に実用化された最初のML薬である14員環系のエリスロマイシン(EM)は今も使われていますが、抗菌活性や消化管吸収性がやや低く、それを改善したものとして1960年代に16員環系薬が相次いで開発されました。さらに、EMの胃酸に対する不安定性や組織移行性の低さ、抗菌活性や抗菌スペクトラムが狭いなどの弱点を克服したのが1990年代以降のニューマクロライドと称されるML薬であって、14員環系のクラリスロマイシン(CAM)、15員環系のアジスロマイシン(AZM)などがあり、今日のML薬の主流となっています。
◇ML薬の有効菌種
ML薬は、グラム陽性菌では肺炎球菌、β溶血性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌(ただし、メチシリン感受性のMSSA)に作用し、グラム陰性桿菌ではインフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス、百日咳菌、一部の嫌気性菌に作用します。非定型病原体のマイコプラズマ・ニューモニエやクラミドフィラ・ニューモニエ、レジオネラ、Q熱コクシエラにも作用します。また、消化器系ではカンピロバクター、ヘリコバクターに作用し、近年増加している非結核性抗酸菌症ではCAMあるいはAZMがキードラッグとして他剤との併用で使われています。なお、ML薬の抗菌活性以外の種々の新作用については後述します。
◇ML薬では耐性化の傾向が進んでいる
ML薬耐性の機序は主に、ML薬の標的である23S rRNA のメチル化、排出蛋白質(efflux protein)によるML薬の排出、 ML薬分解酵素による不活化、ML薬修飾酵素による不活化、リボソームタンパク質の変異、などです。こうした機序によってML薬の耐性化は進行しており、21世紀に入ってからのわが国では市中肺炎の原因菌の8割以上が耐性を示しています。また、ML薬の種類によって抗菌スペクトラムには大きな差があり、使用に当たっては所属施設のアンチバイオグラムなどを参考にしつつ、副作用を勘案しながら使うことになります。
◇ML薬が第一選択となるのは?
こうしたML薬の耐性化進行の現状に鑑みると、ML薬が第一選択となる菌種や疾患は、呼吸器領域のマイコプラズマ・ニューモニエやクラミドフィラ・ニューモニエ、消化器領域でカンピロバクター、ヘリコバクター、性感染症のクラミジア感染症、非結核性抗酸菌症、ペニシリンアレルギーのある梅毒症例ということになります。この内、ヘリコバクターではアモキシシリン(AMPC)およびプロトンポンプ阻害薬との併用が、非結核性抗酸菌症のマイコバクテリウム・アビウム コンプレックス(MAC)感染症ではエタンブトール(EB)およびリファンピシン(RFP)などとの併用が主軸になります。マイコプラズマやクラミドフィラの場合でも、細菌性病原体との混合感染が想定されるときはML薬単独ではなく、β-ラクタム系薬などとの併用が行われます。
◇マクロライド薬の新作用とは?
ML薬が種々の生理活性を示すことは以前からよく知られています。広義のML薬には、抗真菌薬や免疫抑制薬が存在しますが、狭義のML薬にも種々の生理作用があります。消化管運動ホルモンのモチリンに類似した消化管運動機能亢進作用と共に、免疫炎症細胞(好中球、リンパ球、マクロファージ、肥満細胞 等)を介する抗炎症作用がよく知られています。後者の端緒は、1980年代に始まったびまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis;DPB)の例に対するML薬の少量長期投与ですが、DPBの疾患概念は1969年に日本で確立しています。DPBは40~50歳代に多く発症し、呼吸細気管支に広範な炎症が起こって、持続性の咳、大量の痰、息切れ/呼吸困難を生じ、最終的には緑膿菌感染に移行して、5年生存率が50%前後だった指定難病です。通常の1/2~1/3の量のML薬を長期投与することによってこれらの症候は緩やかに軽減・改善し、現在の5年生存率は90%以上になっています。緑膿菌に無効なML薬であっても奏効するのはもちろんその抗菌作用によるものではありません。ML薬の持つ毒素産生抑制作用、エラスターゼ等の酵素産生抑制作用、細菌が産生するバイオフィルム産生の抑制作用、バイオフィルムの破壊作用、菌の細胞付着抑制作用によると考えられていますが、さらに最近では、細菌のQuorum-sensing機構(細菌が自己の存在密度を感知して病原性の発現を調節するメカニズム)を抑制する作用も知られるようになり、ML薬の多彩な生理活性には興味が尽きません。
◇ML薬投与上の注意点
AZMは腎機能低下があっても調節は不要ですが、CAMは腎機能低下者では投与量の調節あるいは投与間隔の延長が必要です。消化管運動機能亢進作用による胃部不快感や下痢などは14員環系ML薬で高率に見られますが、15員環系や16員環系のML薬でもある程度見られます。ML薬の代謝排泄経路は主に肝・胆道系ですから、肝機能障害に注意が必要です。心電図上のQT間隔の延長も時に見られますから、十分な病歴聴取と併用薬剤のチェックが必要です。また、14員環系ML薬の代謝にはCYP3A4が関わりますから、この酵素で代謝される薬物との相互作用が生じ得ます。やはり併用薬剤の確認が必要です。
◇最後に
以上みてきたML薬の長所と短所を把握し、第一選択薬となるのはどのような症例・菌種であるかを踏まえて投与すれば、ML薬による最大限の臨床効果および安全性を達成することが可能となります。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔出典〕
ヴァンメディカル2023年刊行予定書籍「若手医師のための 困った時の抗菌薬攻略本」(渡辺 彰/著)より