「病原体」とは、病気の原因となる生命体ということでしょうか? 言葉の由来を調べたのですが、確定できませんでした。類似した用語に「病原菌」「原因菌」「起因菌」「起炎菌」「微生物」などがありますが、これらの使い分けは人によって異なると思います。
感染症の原因となるのは細菌のみではないので、「病原菌」ではウイルスなどが含まれなくなってしまいます。「原因菌」も同様ですが、「原因ウイルス」「原因真菌」という派生語が使用できるので、医療界では使用されている用語です。「起因菌」「起炎菌」もしばらく前まで使用されていましたが、最近は「原因菌」に吸収されてきているようです。そうすると、「病原体」に近い言葉として「微生物」があるということになります。ただ、気になるのは「生物」という文字です。ウイルスやプリオンが生物と言い切れないからです。ウイルスは遺伝子しか持っておらず、寄生した細胞の持つ仕組みを借りなくてはなりません。生物というよりも物質です。プリオンは蛋白です。そのため、「微生物」にウイルスとプリオンを含めるのには抵抗を感じます。やはり、ベストなのは「病原体」ということになります。
「耐性菌」についてはどうでしょうか? 細菌だけが耐性になるのでしょうか? ウイルスや真菌も耐性化することがあります。そのため「耐性病原体」というのがベストかもしれません。しかし、日常的に遭遇する耐性病原体のほとんどが細菌であることから、「耐性菌」という用語でほとんどが事足りてしまいます。耐性菌は抗菌薬に耐性となった細菌のことであり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や多剤耐性緑膿菌(MDRP)など様々な耐性菌が問題となっています。特に、淋菌は耐性化がものすごく進んでいて、耐性淋菌ばかりです。昔は使用できた抗菌薬のほとんどで効果がなくなり、現在は、セフトリアキソンという注射用抗菌薬しか効果が期待できません。これについても、耐性の淋菌が報告されているので、お先真っ暗の状況となってきました。
(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野 邦夫)
【掲載】
2021年10月刊行新刊書籍「感染対策超入門―成功の秘訣」(矢野邦夫 著,ヴァンメディカル刊)より
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