強い磁石を砂場に入れて、かき混ぜると、砂鉄がびったりと付着することでしょう。それらをすべて取り除くことは大変です。取り除く努力をしても、磁石のどこかには目に見えないほどの砂鉄が付いたままとなっていると思います。しかし、磁石を薄いビニール袋にいれて、砂場に入れるならば、対処は容易となります。ビニールから磁石を取り出せば済むからです。この時のビニール袋の役目は砂鉄が磁石に直接付着するのを防ぐというものです。
感染対策は病原体が人間に感染するのを防ぐために実施します。言い換えれば「ビニール袋(感染対策)は砂鉄(病原体)が磁石(人間)に付着(感染)するのを防ぐ役割をしている」となります。しかし、ビニール袋に穴が開いていれば、砂鉄が穴から入り込んでしまいます。同様に、感染対策に綻びがあれば、病原体が綻び部分から人間に感染してしまうのです。
ビニール袋と感染対策の役目は似ていますが、それらの機能を最大限にする方法は大きく異なります。ビニール袋であれば頑丈な製品を購入すれば済むことですが、感染対策は様々なことを実行しなければなりません。そして、ビニール袋の対象は砂鉄ですが、感染対策の対象は細菌、ウイルス、真菌、プリオンなど範囲が広いのです。これらの病原体は様々な経路から人間に感染しようと試みます。その感染経路は医療従事者の手指を介したり、空気感染や飛沫感染したり、汚染した手術器具だったり色々です。そのような感染経路を断ち切るために、感染対策では複数の対策を同時に実施しなくてはなりません。
感染対策の基本は標準予防策です。これに加えて、感染経路別予防策、器具の滅菌や消毒、環境清掃、ワクチン接種などを実施します。そして、感染対策の守備範囲は急性期病院のみならず、他の医療現場(在宅医療、外来医療、長期医療施設など)へも拡大しています。新型コロナウイルスの流行により、一般の人々も感染対策の重要性を理解するようになりました。実際、ユニバーサル・マスキングや手指消毒が広く実施されています。これまで「院内感染対策」から「医療関連感染対策」と進化してきましたが、これからは一般の人々も巻き込んだ「感染対策」が必要となります。
(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野 邦夫)
【掲載】
2021年10月刊行新刊書籍「感染対策超入門―成功の秘訣」(矢野邦夫 著,ヴァンメディカル刊)より
👉Amazonでのご購入はこちら
👉ヴァンメディカルでのご購入はこちら