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2021.09.24 病原体

新型コロナ治療のゲームチェンジャー 経口抗コロナウイルス薬 著者:渡辺 彰

 

この夏以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として我が国では2種類の抗体医薬(ロナプリーブ、ソトロビマブ)が承認されました。中和抗体そのものを投与する抗体療法は、COVID-19の患者を大きく減らす切り札になるのでしょうか? 注射薬で価格が高いこともあり、切り札になるとは言えません。切り札、すなわちゲームチェンジャーになるのは、発症早期の軽症の内に投与が可能な経口の抗コロナウイルス薬になると思われます。なぜでしょうか?

COVID-19の原因病原体である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のヒトへの感染後の動きはインフルエンザウイルスとよく似ています。すなわち、発症前から周囲への感染力があり、発症後ほぼ48時間でウイルスの量はピークとなってその後は急速に減少し、そのピークの時期以降に抗ウイルス薬を投与してもその効果はどんどん低下していく(1)点がそっくりなのです。COVID-19の重症例は、ウイルスがどんどん減少していく時期に免疫が過剰に発動して多臓器不全を起こしている(≒サイトカインストーム)例が多く、ウイルスが減っているこの時期に抗コロナウイルス薬を投与するだけでは効果があまり期待できません。

したがって、COVID-19の治療は大きく2つに分かれます。ウイルスがどんどん増えている発症早期には抗コロナウイルス薬あるいは抗体医薬の投与であり、発症後期には過剰な免疫を抑える免疫抑制薬の投与です。そして、COVID-19の患者を大きく減らすためには、患者数が最も多い発症早期の軽症の内に抗ウイルス薬あるいは抗体医薬を投与することが肝要です。インフルエンザの治療では、もっぱら経口抗インフルエンザ薬でそれが既に実現されており、いわゆる濃厚接触のハイリスク者などへの予防投与も認められています。

抗コロナウイルス薬ではレムデシビルが承認されていますが、注射薬であって手軽に使えるわけではなく、また、元々はエボラ感染症治療薬として開発中の薬剤だったこともあり、SARS-CoV-2に対する効果はそれほど強いとは言えません。抗体医薬も先述の理由で切り札とは言えません。安価で投与しやすく、多数の軽症例に多量の供給が見込める経口抗コロナウイルス薬が切り札の大きな候補です。現在、多くの経口抗コロナウイルス薬が臨床開発中ですが、その中でもRNAポリメラーゼ阻害薬とプロテアーゼ阻害薬が有望とされ、期待が集まるところです。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Kim KS et al: A quantitative model used to compare within-host SARS-CoV-2, MERS-CoV, and SARS-CoV dynamics provides insights into the pathogenesis and treatment of SARS-CoV-2. PLOS Biol 19(3): e3001128, Mar 22, 2021
https://www.natureindex.com/article/10.1371/journal.pbio.3001128

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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