昨年の今頃は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの同時流行が大いに警戒されていました。それもあって、我が国のインフルエンザワクチンの接種件数は例年より約2割増えましたが、結果的に同時流行は起きず、インフルエンザの患者は例年の約1,000分の1の14,000人にとどまりました(1)。今年のワクチンはどうすればよいのでしょうか?
この冬も、インフルエンザの流行は小規模になると思われます。考えられるその理由を本サイトの前報(2)に記しましたが、同時に、ワクチンの接種が進んでCOVID-19に対する免疫を持つ人が増えるとインフルエンザが再び増えてくる可能性もある、とも記しました(2)。インフルエンザワクチンは接種しておく方が安心ですが、いつ打てばよいのでしょうか?
今シーズンのインフルエンザワクチンは、例年とほぼ同じ2,567万本~2,792万本(5,134万人~5,584万人分)供給される見通し(3)ですが、接種時期に関しての不安材料があります。例年は11月前半には出荷がほぼ完了するのですが、ワクチン製造資材の入手遅延等を受けて、昨年度よりも遅れたペースで供給される予定であり、12月中旬頃まで出荷が続く見込み(3)というのです。インフルエンザ流行シーズン前に接種を完了したいものですが、今年は接種が遅れる可能性があります。
接種時期に関しては、もう一つ懸念材料があります。現行のインフルエンザワクチンは生ワクチンではなく不活化ワクチンですから、生ワクチン以外の他のワクチン、例えば肺炎球菌ワクチンや組換えサブユニット型帯状疱疹ワクチンとの同時接種も可能です。ところが、現在の新型コロナワクチンは生ワクチンではないにもかかわらず、我が国では「他のワクチンと前後2週間の接種間隔を取ること」とされているのです(4)。新型コロナワクチンをこれから接種する人は、そちらを優先し、その2回目接種後2週間経過してからインフルエンザワクチンを接種する予定を立てておくのがよいでしょう。
米国疾病管理予防センター(CDC)は以前、我が国と同様に「新型コロナワクチンは他のワクチンと前後2週間の接種間隔を取る」ことを推奨していましたが、2021年8月31日に「他のワクチンの接種のタイミングと関係なく接種することが可能」と推奨を変えたばかりです。我が国でも同様に変更されるものと思いますが、いずれにしても新型コロナワクチンを優先し、その次にインフルエンザワクチンを接種するよう考えておきましょう。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)厚生労働省健康局結核感染症課:インフルエンザの発生状況について、インフルエンザ流行レベルマップ(2021年第9週).https://www.mhlw.go.jp/content/000752481.pdf
(2)渡辺 彰:新型コロナ vs インフルエンザ 次の冬はどうなる?-専門医が“超”先読み! 感染対策Online 2021-07-27 https://www.kansentaisaku.jp/2021/07/3060/
(3)厚生労働省:第26回厚生科学審議会予防接種・ワクチン 分科会研究開発及び生産・流通部会「資料」.2021年9月1日 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000825764.pdf
(4)厚生労働省:新型コロナワクチン 予診票の確認のポイント Ver 3.0 (令和3年8月 13 日版).https://www.mhlw.go.jp/content/000786185.pdf
(5)CDC:Interim Clinical Considerations for Use of COVID-19 Vaccines Currently Approved or Authorized in the United States.Aug 31, 2021. https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/clinical-considerations/covid-19-vaccines-us.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fvaccines%2Fcovid-19%2Finfo-by-product%2Fclinical-considerations.html