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2021.07.27 病原体

新型コロナvsインフルエンザ 次の冬はどうなる?―専門医が“超”先読み! 著者:渡辺 彰

 

我が国のインフルエンザ患者は、毎年1,000万人を超えていますが、昨年9月から本年2月までの推定患者数はわずか14,000人でした(1)。例年の1/1,000であり、懸念された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との同時流行もありませんでした。次の冬はどうなるのでしょうか?

筆者は、1年前の本サイトに「新型コロナvsインフルエンザ どちらが勝つか?―専門医が先読み!冬の同時流行」と題した一文を載せました(2)。同時流行が懸念されていたからですが、「同時流行は起きない、COVID-19が優勢に流行する」と述べました。その通りになりましたが、裏付けがありました。オーストラリアのインフルエンザの状況です。オーストラリアの流行が半年遅れて北半球で再現されることが多いからです。

南半球のオーストラリアのインフルエンザのピークは例年8月ですが、昨年は7月下旬になっても流行していませんでした(3)。その後も、今年の7月中旬に至るまで流行は全く見られず、最近のインフルエンザ確定患者も1週間で10~25人程度です(4)。日本の次の冬も同じになると思われます。なぜ、インフルエンザが影を潜めたのでしょうか?

多くの論調は、COVID-19に対する厳重な予防策がインフルエンザを抑えたとしています。しかし、中国・武漢で新しい感染症が発生という最初のニュ-スの1週間前(2019年12月下旬)から、我が国のインフルエンザ流行は急速に下火になっています。COVID-19の国内発症第一例は2020年1月中旬、ダイヤモンド・プリンセス号の船内集団感染は2月であり、COVID-19予防策が広く行われ始めたのはその頃からです。

なぜ、予防策がとられる前に影を潜めたのでしょうか? 同じ呼吸器ウイルス同士の競合・干渉の結果と考えられます。過去の罹患や毎年のワクチン接種で多くの人がインフルエンザに免疫を有する一方、COVID-19にはほぼ誰も免疫を持っていませんでした。インフルエンザが影を潜めるのは当然です。ウイルス同士の競合・干渉を示すように、オーストラリアでは2020年3月中旬、例年より早くインフルエンザの流行が立ち上がり始めた途端、頭を打たれたように急速に減少し始めました(3)。COVID-19の流行第一波がちょうど始まった時期です。

次の冬もインフルエンザは流行しないと思われますが、不確定要素が一つあります。コロナワクチン接種の進捗状況です。接種が進めば、インフルエンザは息を吹き返す可能性があり、インフルエンザワクチンも接種しておく方が安心です。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)厚生労働省健康局結核感染症課:インフルエンザの発生状況について、インフルエンザ流行レベルマップ(2021年第9週)
https://www.mhlw.go.jp/content/000752481.pdf
(2)渡辺 彰:新型コロナ vs インフルエンザ どちらが勝つか?―専門医が先読み!冬の同時流行.感染対策Online 2020-08-06 https://www.kansentaisaku.jp/2020/08/1214/
(3)Australian Government Department of Health:Australian influenza surveillance report No.8, 2020, 13 July to 26 July 2020
https://www1.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/5F27336697A16499CA2585B60001ED37/$File/flu-08-2020.pdf
(4)Australian Government Department of Health:Australian influenza surveillance report, N0.8, 2021, Reporting fortnight:05 July to 18 July 2021
https://www1.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/cda-surveil-ozflu-flucurr.htm/$File/pdf-flu-08-2021.pdf

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
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