感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
運営会社: Van Medical
2021.07.16 病原体

異なるワクチン接種 速報―副反応と有用性と変異株への効果 著者:渡辺 彰

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンは、原則として2回とも同じものが接種されていますが、有害事象の問題などを背景に、2回目に異なるワクチンを接種した際の安全性や免疫原性が欧米で検討されています。

安全性の成績は既に報告されています(1)。アストラゼネカ社のワクチン(ChAdOx1、以下ChAd)とファイザー社のBNT162b2(以下、BNT)を用いて、2回とも同じワクチンを接種した群と異なるワクチンを接種した群とを比較し、異種ワクチン接種は同種ワクチン接種より、総じて副反応(熱感、悪寒、倦怠感、頭痛、関節痛、疲労感、筋肉痛など)が強いと報告しています。

同じ例におけるワクチンによる免疫誘導の成績がLiuら(2)から報告されました。彼らは830名のボランティアを、同じワクチンを2回接種する2つの群(ChAd/ChAdあるいはBNT/BNT)と、2回目に異なるワクチンを接種する2つの群(ChAd/BNTあるいはBNT/ChAd)の計4群に分け、それぞれ4週間または12週間空けてワクチンを2回接種しています(計8群)。今回は、接種間隔を4週間空けた4つの群(計463名)における抗体レベルの動きの報告です。

ChAd/ChAd群に対して他の3つの群はいずれも抗体レベルが高く上がり、BNT/BNT群が最も高いという結果です。他の研究グループも、1回目にChAd、2回目にBNTを接種した群は、ChAdを1回だけ接種した群より抗体レベルが有意に高く上昇した(3)としていますが、対照とすべきChAd/ChAd群は検討されていません。いずれにしろ、複数回接種の有用性およびBNTの優位性が示唆されるようです。しかし、今回の接種間隔の4週間(2)は、ChAdの本来の接種間隔である8~12週間より短く、抗体上昇が少ない可能性があります。実際、ChAdの2回目接種が45週後の場合、8~12週間後に2回目を接種するより4倍高い抗体レベルが得られており(4)、また、2回目接種を6週間以内、6~8週間後、9~11週間後、12週以降とすると、その順にCOVID-19の発症がより強く抑えられるという臨床試験成績(5)もあります。異種ワクチン接種においても、ChAdの本来の接種間隔で検討・評価することが重要と言えます。

なお、最新号のNEJM誌には、1回目にChAd、2回目にモデルナ社のmRNA-1273ワクチンを接種した群とChAd/ChAd群の比較で、前者が副反応は多いものの、B.1.351変異を持つベータ型(南アフリカ型)変異株に対してより強い中和抗体が誘導されるという短報が掲載され(6)、異種ワクチン接種の有用性が示唆されます。

副反応は少し多いものの、異種ワクチン接種の有用性については変異株対策を含めてさらなる検討が必要と思われますし、Liuらの研究(2)についても12週間の間隔で2回目を接種したグループの結果が待たれます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Shaw RH et al:Heterologous prime-boost COVID-19 vaccination: initial reactogenicity data. Lancet 397:2043-2046, 2021
(2)Liu X et al:Safety and immunogenicity report from the Com-COV study – A single-blind randomised non-inferiority trial comparing heterologous and homologous prime-boost schedules with an adenoviral vectored and mRNA COVID-19 vaccine. Preprint of the Lancet
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3874014
(3)Borobia AM et al:Immunogenicity and reactogenicity of BNT162b2 booster in ChAdOx1-S-primed participants (CombiVacS): a multicentre, open-label, randomised, controlled, phase 2 trial. Lancet 398:121-130, 2021
(4)Flaxman A et al:Tolerability and immunogenicity after a late second dose or a third dose of ChAdOx1 nCoV-19 (AZD1222). Preprint of the Lancet
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3873839
(5)Voysey M et al:Single-dose administration and the influence of the timing of the booster dose on immunogenicity and efficacy of ChAdOx1 nCoV-19 (AZD1222) vaccine: a pooled analysis of four randomised trials.  Lancet 397:881-891, 2021
(6)Normark J et al:Heterologous ChAdOx1 nCoV-19 and mRNA-1273 Vaccination. New Engl J Med, July 14, 2021. DOI: 10.1056/NEJMc2110716

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

一覧へ戻る
関連書籍・雑誌
感染と抗菌薬 Vol.24 No.1 2021 特集:経験に学ぶCOVID-19診療―見えてきた日本の治療指針

編集:
東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
帝京大学医学部微生物学講座 主任教授 斧 康雄
国立病院機構東京病院感染症科部長 永井 英明


2021年3月刊

感染と抗菌薬 Vol.24 No.2 2021 特集:Withコロナ感染症診療―Afterコロナを見据えて

編集:
東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
帝京平成大学健康メデイカル学部 教授・副学長/帝京大学医学部 名誉教授
国立病院機構東京病院感染症科部長 永井 英明


2021年6月刊

バスケットボールのケガ―メカニズム・治療・リハビリ・予防

◆スポーツドクターが解説。これまで無かった! 選手・指導者に向けた『バスケットボール』の『ケガ』の本!!
◆「急いで競技復帰して、捻挫癖がついた。違和感が残った。」誰もが経験したケガへの間違ったアプローチは、本書を読めば必ず正すことができます。
◆適切な治療・リハビリができれば、復帰後のパフォーマンス・競技人生が全く違います。
◆中学・高校・大学のバスケ部員、指導者、ミニバスの保護者など、バスケを愛する人に必携の一冊です。

亀田メディカルセンター スポーツ医学科 部長代理 服部惣一 著
2021年7月刊