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2021.06.10 病原体

インド型変異株(デルタ株)には2回接種が重要!―ワクチン効果の最新知見 著者:渡辺 彰

 

世界保健機関(WHO)の新しい基準(1)でデルタ株と呼ばれるようになった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のインド型変異株は、我が国でもアルファ株(=イギリス型変異株)にとって代わる勢いで増加中です。デルタ株が持つ主要な変異であるL452Rは、感染相手の受容体細胞へのスパイクの結合能力を高めると共に、東アジア人に多くて日本人の6割が持つ白血球の型「HLA(ヒト白血球抗原)-A24」がつくる免疫細胞から逃れやすくなる性質を与えます(2)。デルタ株はこれによって日本を含むアジア地区で急増しているようですが、重症化しやすいかどうかはまだよく分かっていません。では、ワクチンは有効なのでしょうか?

査読前の論文ですが、Bernalら(3)は、4月5日~5月16日の間に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症候があってゲノム解析で判明した英国型変異株(=アルファ株)11,621例とインド型変異株(=デルタ株)1,054例におけるワクチン効果を、診断陰性例対照法(Test-negative case-control design)で解析しています。先に結論を述べると、1回だけではなく2回接種が望ましいと解釈できます。すなわち、1回目接種から21日以上経過後の時点で、ファイザー社のワクチン(BNT162b2)は英国型で49.2%、インド型で33.2%のワクチン効果でした。アストラゼネカ社のワクチン(ChAdOx1)も英国型で51.4%、インド型で32.9%と同様であり、特にインド型では1回接種の効果は低いようです。

その後、2回目接種から14日以上経過後では、BNT162b2は英国型で93.4%、インド型で87.9%とワクチン効果は高く、ChAdOx1は英国型で66.1%、インド型で59.8%ですが、ChAdOx1のワクチン効果の発現・増強には、少し長い時間が必要(4)なことが影響しているようです。解析の例数を増やして時間をかけた追跡調査が望まれますが、2回接種用のワクチンは規定通り2回接種すべきと言えます。

なお、これも査読前の論文ですが、横浜市立大学のグループは、BNT162b2の2回目接種後にインド型を含む各種変異株に対する中和抗体が90%以上の例に確認されたと報告しており(5)、ワクチン接種はやはり重要です。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)WHO:WHO announces simple, easy-to-say labels for SARS-CoV-2 variants of interest and concern. 2021 May 31
https://www.who.int/news/item/31-05-2021-who-announces-simple-easy-to-say-labels-for-sars-cov-2-variants-of-interest-and-concern
(2)Motozono C et al:An emerging SARS-CoV-2 mutant evading cellular immunity and increasing viral infectivity. bioRxiv preprint doi: https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.04.02.438288v1
(3)Bernal JL et al:Effectiveness of COVID-19 vaccines against the B.1.617.2 variant. https://khub.net/documents/135939561/430986542/Effectiveness+of+COVID-19+vaccines+against+the+B.1.617.2+variant.pdf/204c11a4-e02e-11f2-db19-b3664107ac42
(4)Voysey M et al:Single-dose administration and the influence of the timing of the booster dose on immunogenicity and efficacy of ChAdOx1 nCoV-19 (AZD1222) vaccine : a pooled analysis of four randomised trials.  Lancet 397:881-891, Mar 6 2021
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00432-3.
(5)Miyakawa K et al:Rapid detection of neutralizing antibodies to SARS-CoV-2 variants in post-vaccination sera. medRxiv preprint doi: https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.05.06.21256788v1

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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