従来、我が国のRSウイルスの流行期は、通常10~12月に開始し、3~5月に終了する、いわゆる「冬」の感染症でした。しかし、2017年以降、流行の開始と流行のピークが早期化し、RSウイルス感染症は、8月に急増し、9月にピークとなる「夏」の感染症と大きく変化していました。そこに、2020年の新型コロナウイルスの流行が起こりました。
ご存知のように、この新型コロナウイルスの流行は、国民全体に手指衛生やマスクの着用、3密を避ける、ソーシャルディスタンスなどの感染対策を行いながら生活・行動をする、という変化をもたらしました。また、海外との往来が制限されました。幼稚園や保育園においても、衛生に関する意識はさらに高まりました。その結果と考えられていますが、2020年は、夏も冬もRSウイルスの流行が起こりませんでした。
2021年に入り、多くの地域でRSウイルスの流行がない一方、緊急事態宣言中にも関わらず、2月ごろから九州を中心とする一部の地域でRSウイルス感染症の報告が増加し、流行が始まりました。これが全国的に広がり、4~5月からは多くの地域でRSウイルスの流行が始まっています。これは今までに経験のない時期の流行です。この現象は日本だけでなく、南半球のオーストラリアでも、今までの流行期ではない時期にRSウイルスの流行が起こったことが報告されています(1)。
これらを踏まえ、RSウイルスの流行が、6月の今、起こっていることを認識しておく必要があります。RSウイルスに対しては、ワクチンはなく、早産児や先天性心疾患などの基礎疾患を有する一部の乳幼児に対してのみ使用できるパリビズマブという予防薬しかありません。そのため、接触・飛沫感染予防に一層取り組み、子どもたちのRSウイルス感染症を予防する必要があります。
(著者:日本大学医学部小児科学系小児科学分野 主任教授 森岡 一朗)
〔文献〕
(1)Foley DA et al:The interseasonal resurgence of respiratory syncytial virus in Australian children following the reduction of coronavirus disease 2019-Related public health measures. Clin Infect Dis. Published online 2021 Feb 17. doi: 10.1093/cid/ciaa1906