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2021.06.09 病原体

インド型変異株(デルタ株)はなぜ今、増えているのか? 著者:渡辺 彰

 

新型コロナウイルスの変異株について、世界保健機関(WHO)は5月31日に名称を変更しました(1,2)。新しい名称でデルタ株となるインド型変異株は当初、4月27日に「注目される変異株(VOI:Variants of Interest)」に指定され、5月11日にはワンランク上げられて「懸念される変異株(VOC:Variants of Concern)」に指定されました。我が国でも急増中であり、英国型変異株(=アルファ株)に取って変わる勢いですが、どんな変異で、なぜ増加しているのでしょうか?

インド型変異株(=デルタ株)は幾つかの変異を持っています。その多くはウイルスの生存に影響しませんが、L452R変異の影響は大きく、VOCに指定された要因にもなっています。L452R変異では、コロナウイルスの表面のスパイクのタンパク質を構成するアミノ酸の配列の452番目のアミノ酸が、L(ロイシン)からR(アルギニン)に置き換わっているのですが、この変異があるとどうなるのでしょうか?

査読前の論文ですが、Motozonoら(3)が、L452R変異では感染相手の細胞へのスパイクの結合能力が高まると共に、東アジア人に多くて日本人の6割が持つ白血球の型「HLA(ヒト白血球抗原)-A24」がつくる免疫細胞から逃れやすくなるとしています。すなわち、感染力が高まると同時に、日本人などが持っている免疫からの攻撃を受けにくい、ということです。日本を含むアジア地区における現在の急増は、このL452R変異が原因のようですが、重症化しやすいかどうかはまだよく分かっていません。

ところで今、二重変異株が心配されています。二重変異は、感染や治療および予防の面で重大な影響のあるアミノ酸変異が2つ重なり、さらにそれが多数分離されて深刻な状況になりそうな場合を指すと思われますが、「どの変異が重要なのか?」については専門家の間でも見解が分かれています。例えばインド型変異株でも、L452R変異とE484Q変異[スパイク蛋白質の484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からQ(グルタミン)に置き換わる変異]を併せ持つ株が少数分離されていますが、E484Q変異の重要性についての専門家の見方が様々なのです。今後の見解に注目していきましょう。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)WHO:WHO announces simple, easy-to-say labels for SARS-CoV-2 variants of interest and concern. 2021 May 31, https://www.who.int/news/item/31-05-2021-who-announces-simple-easy-to-say-labels-for-sars-cov-2-variants-of-interest-and-concern
(2)WHO:Tracking SARS-CoV-2 variants, Naming SARS-CoV-2 variants. https://www.who.int/en/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants/
(3)Motozono C et al:An emerging SARS-CoV-2 mutant evading cellular immunity and increasing viral infectivity. bioRxiv preprint doi: https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.04.02.438288v1

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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