新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の切り札は、安価で多くの供給が可能な経口抗コロナウイルス薬であり、発症早期の投与です。開発中の経口抗コロナウイルス薬は数多くありますが、有力な候補と目されるのは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の持つ酵素であるRNAポリメラーゼやプロテアーゼを阻害して増殖を抑える薬剤です。現在、5種類が臨床第Ⅱ相あるいは第Ⅲ相試験の段階、あるいは、まもなくその段階に入ります。
RNAポリメラーゼ阻害薬では、ファビピラビル(富士フイルム富山化学㈱)、モルヌピラビル(メルク社、MSD㈱)、AT-527(ロシュ社、中外製薬㈱)の3薬が有力であり、いずれも臨床第Ⅲ相試験を行っています。他のウイルスも持つRNAポリメラーゼを阻害する薬剤であり、元々は前二者がインフルエンザ治療薬として、AT-527はC型肝炎治療薬としての開発が進行中でした。基礎的な検討でSARS-CoV-2にも抗ウイルス活性が認められたものです。
ファビピラビルは、発症後ほぼ5日以内の例ではプラセボ投与群に比し「体温、酸素飽和度、胸部X線所見の改善、SARS-CoV-2のPCR2回連続陰性」の項目が改善・達成される日数に有意な短縮が見られます(1)。モルヌピラビルでは、プラセボ投与群に比しウイルス量の有意な減少が見られ(2)、第Ⅲ相試験の結果次第では本年中に米国で緊急使用許可を取得する見込みがあります。AT-527を含めて次項のプロテアーゼ阻害薬より早く承認されるかも知れません。
PF-07321332(ファイザー社)とS-217662(塩野義製薬㈱)は、いずれもSARS-CoV-2のみが持つ3CLプロテアーゼ(3)を阻害する薬剤です。最初からCOVID-19 治療薬として開発が始まっており、SARS-CoV-2に特異的に作用するという意味で有望な薬剤と思われます。PF-07321332は、ハイリスクのCOVID-19外来患者を対象にプラセボ対照でリトナビルとの併用試験を行っており(4)、S-217662は臨床第Ⅱ相試験の段階に進むところですが、開発の端緒はいずれもCOVID-19の出現であり、1年半ほどの短期間にここまで開発が進んだのは近年の創薬科学の進展が目覚ましいことを表しています。RNAポリメラーゼ阻害薬を含めて効果と安全性に優れていることが期待されると共に、ゆくゆくは抗インフルエンザ薬のように濃厚接触者における予防投与が実現することも期待されます。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)Shinkai M et al:Efficacy and safety of favipiravir in moderate COVID-19 pneumonia patients without oxygen therapy: A randomized, phase Ⅲ clinical trial. Infect Dis Ther: 1-21, Aug 27, 2021
https://doi.org/10.1007/s40121-021-00517-4
(2)Fischer W et al:Molnupiravir, an oral antiviral treatment for COVID-19. medRxiv, 1-30, 2021 Jun 17
https://doi.org/10.1101/2021.06.17.21258639
(3)Dai W et al:Structure-based design of antiviral drug candidates targeting the SARS-CoV-2 main protease. Science 368: 1331-1335, 2020
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7179937/pdf/abb4489.pdf
(4)NIH Clinical Trial Governments:A Study of PF-07321332/Ritonavir in Nonhospitalized High Risk Adult Participants With COVID-19. Sept 21, 2021
https://www.clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04960202