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2021.05.25 病原体

医療従事者へのワクチン接種は、変異株をも含むコロナ感染を大きく減らしている! 著者:渡辺 彰

 

医療従事者に対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種は、医療従事者のCOVID-19感染を大きく減らしているという複数の報告が出ています。

我が国では、ファイザー社製のBNT162b2の医療従事者への先行接種が2021年2月17日から開始されました。国立感染症研究所は、高齢者接種開始前の4月11日までにCOVID-19ワクチンを1回以上接種した医療従事者を対象に、COVID-19の診断日などを、ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)と感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)のデータを用いた仮想コホート研究で事後的に解析しています(1)。観察時期は、国内でも英国型変異株が増加中でしたが、4月30日時点で2回目の接種終了者は1,042,998人でした。

この研究によると、ワクチン接種以降のCOVID-19診断例は281例(女性および20~40歳代が約7割)で、256例(91.1%)は接種後28日以内の例でした。2回目接種以降の診断例は47例(16.7%)ですが、無症候例がその内の40.7%であり、1回目接種以降の無症候例の20.0%より高い比率でした。経時的な観察では、1回目接種後の診断例の報告が人口10万対で、接種後0~13日が1.26人、14~20日が0.53人、21~27日が0.49人、28日以降が0.18人であり、接種後0~13日と比べて14~20日が0.42倍、21~27日が0.39倍、28日以降が0.14倍の報告数でした。この研究には多くの限界があるものの、1回目接種から12日前後を境に報告率が低下する傾向が見られており、このころからワクチン効果が表れるようです。

医療従事者が対象の研究は海外からも報告されており、ワクチン未接種者を対照とした解析が行われています。Hallら(2)は、英国の公立病院のスタッフ23,324人(年齢中央値は46.1歳、84%が女性、94%がBNT162b2を接種)を対象に、PCR検査を用いてワクチンの有効性を評価する前向きコホート研究を行いましたが、観察時期は英国型変異株が増加中の時期でした。対照集団と比べたワクチン効果は初回接種から21日後で70%、2回目接種後7日後で85%でした。

イスラエルからも医療従事者における同様の結果が報告され、ワクチン効果は症候性感染に関しては97%、無症候性感染でも86%と高く(3)、我が国のワクチン接種が医療従事者から高齢者、一般市民へ円滑かつ迅速に進むこと、および、接種を終えた医療従事者の貢献が期待されます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)国立感染症研究所:新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer_BioNTech)を接種後のCOVID-19報告率に関する検討(第1報).2021年5月13日
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2551-lab-2/10358-covid19-46.html
(2)Hall VJ et al:COVID-19 vaccine coverage in health-care workers in England and effectiveness of BNT162b2 mRNA vaccine against infection (SIREN): a prospective, multicentre, cohort study. Lancet 397:1725-1735, 2021(May 8).
(3)Angel Y et al:Association between vaccination with BNT162b2 and incidence of symptomatic and asymptomatic SARS-CoV-2 infections among health care workers. JAMA. doi:10.1001/jama.2021.7152, Published online May 6, 2021.

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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