医療従事者に対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種は、医療従事者のCOVID-19感染を大きく減らしているという複数の報告が出ています。
我が国では、ファイザー社製のBNT162b2の医療従事者への先行接種が2021年2月17日から開始されました。国立感染症研究所は、高齢者接種開始前の4月11日までにCOVID-19ワクチンを1回以上接種した医療従事者を対象に、COVID-19の診断日などを、ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)と感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)のデータを用いた仮想コホート研究で事後的に解析しています(1)。観察時期は、国内でも英国型変異株が増加中でしたが、4月30日時点で2回目の接種終了者は1,042,998人でした。
この研究によると、ワクチン接種以降のCOVID-19診断例は281例(女性および20~40歳代が約7割)で、256例(91.1%)は接種後28日以内の例でした。2回目接種以降の診断例は47例(16.7%)ですが、無症候例がその内の40.7%であり、1回目接種以降の無症候例の20.0%より高い比率でした。経時的な観察では、1回目接種後の診断例の報告が人口10万対で、接種後0~13日が1.26人、14~20日が0.53人、21~27日が0.49人、28日以降が0.18人であり、接種後0~13日と比べて14~20日が0.42倍、21~27日が0.39倍、28日以降が0.14倍の報告数でした。この研究には多くの限界があるものの、1回目接種から12日前後を境に報告率が低下する傾向が見られており、このころからワクチン効果が表れるようです。
医療従事者が対象の研究は海外からも報告されており、ワクチン未接種者を対照とした解析が行われています。Hallら(2)は、英国の公立病院のスタッフ23,324人(年齢中央値は46.1歳、84%が女性、94%がBNT162b2を接種)を対象に、PCR検査を用いてワクチンの有効性を評価する前向きコホート研究を行いましたが、観察時期は英国型変異株が増加中の時期でした。対照集団と比べたワクチン効果は初回接種から21日後で70%、2回目接種後7日後で85%でした。
イスラエルからも医療従事者における同様の結果が報告され、ワクチン効果は症候性感染に関しては97%、無症候性感染でも86%と高く(3)、我が国のワクチン接種が医療従事者から高齢者、一般市民へ円滑かつ迅速に進むこと、および、接種を終えた医療従事者の貢献が期待されます。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)国立感染症研究所:新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer_BioNTech)を接種後のCOVID-19報告率に関する検討(第1報).2021年5月13日
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2551-lab-2/10358-covid19-46.html
(2)Hall VJ et al:COVID-19 vaccine coverage in health-care workers in England and effectiveness of BNT162b2 mRNA vaccine against infection (SIREN): a prospective, multicentre, cohort study. Lancet 397:1725-1735, 2021(May 8).
(3)Angel Y et al:Association between vaccination with BNT162b2 and incidence of symptomatic and asymptomatic SARS-CoV-2 infections among health care workers. JAMA. doi:10.1001/jama.2021.7152, Published online May 6, 2021.