新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、種々の変異株が出現しており、その多くで感染性や重症化の確率がより強くなっていると言われます。感染者の分離ウイルス全体に占める変異株の比率は、我が国では英国型の変異株が過半数を占める勢いであり、次いで南アフリカ型が増加し始めていますが、欧米や日本で接種が進んでいるファイザー社/アストラゼネカ社/モデルナ社/J&J社のワクチンは、これらの変異株に対しては有効なのでしょうか?
アストラゼネカ社のワクチン(ChAdOx1)については、英国型の変異株に対しては74.6%のワクチン効果(1)であるものの、南アフリカ型の変異株に対しては10.4%のワクチン効果(2)という報告が相次いで出ました。一方、ファイザー社のワクチン(BNT162b2)については、カタールの実臨床における解析結果が5月5日のThe New England Journal of Medicine(NEJM)誌 オンライン版のCorrespondence(短報)に報告されました(3)。カタールでは2020年12月21日にワクチン接種が開始された中、2つの変異株が次第に増加し、2021年3月7日以降は上記2つの変異株がほとんどを占めていると言われます。そうした状況でありながら、BNT162b2のワクチン効果は英国型の変異株に対して89.5%、南アフリカ型に対しては75.0%であったと報告しています。
ワクチン効果というのは通常、ワクチン非接種者の集団における発症者に対して接種者集団における発症者が何%減ったか、という尺度で表されますが、この報告(3)ではさらに、重症化や死亡に対するBNT162b2の抑制効果をみています。世界保健機関(WHO)の基準(4)に準じた場合、COVID-19の重症化および死亡を抑える効果が、英国型の変異株ではワクチン1回接種後で54.1%および2回接種後では100%、南アフリカ型ではワクチン1回接種後で0.0%および2回接種後では100%だったとしていますが、重症例の数がかなり少ないため、ラフな解析になっているであろうことには留意が必要です。
重症化や死亡の抑制に関しては、さらなる検討が必要なようですが、2回接種が必要とされているワクチンでは、すべからく2回の接種を行うことが肝要です。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)Emary KRW et al:Efficacy of ChAdOx1 nCoV-19 (AZD1222) vaccine against SARS-CoV-2 VOC 202012/01(B.1.1.7). Preprints with the Lancet. https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3779160
(2)Madhi SA et al:Efficacy of ChAdOx1 nCoV-19 Covid-19 vaccine against the B.1.351 variant. N Engl J Med, Apr.5 2021. DOI: 10/1056.NEJMoa2102214.
(3)Abu-Raddad LJ et al:Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 vaccine against the B.1.1.7 and B.1.351 variants. N Engl J Med, May.5 2021. DOI: 10/1056.NEJMc2104974.
(4)WHO:COVID-19 clinical management:living guidance. January 25, 2021
https://www.who .int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-clinical-2021-1