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2021.04.20 病原体

アストラゼネカ社のコロナワクチン―血栓症は大丈夫? 初回半量接種のほうが効果あり? 著者:渡辺 彰

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアストラゼネカ社のワクチン AZD1222では現在、血栓症併発の可能性が欧米で指摘されています。後述するAZD1222の4つの臨床試験における併発頻度は対照群と有意差がなく、実臨床で100万人当たり4人程度と発生頻度は低いものの、60歳以下の女性に多いと言われます。そこに発生機序を解明するヒントがありそうで、欧米で服用が多くて血栓症の併発が報告されている排卵抑制目的のピルあるいは女性ホルモンとの関連を踏まえた解析も必要、と筆者は考えています。なお、血栓症は高齢者では問題になっていませんし、ファイザーグループやモデルナグループのワクチンでも問題になっていません。高齢者は安心して接種できます。

AZD1222では、2回目の接種を遅らせるとワクチン効果が上がるというVoyseyらの報告(1)が出ました。英国・ブラジル・南アフリカで行われた計4つの臨床試験の17,178名(AZD1222接種が8,597名、対照接種が8,581名)が解析対象です。初回の接種から2回目の接種までを6週間以内、6~8週間以内、9~11週間以内、12週間以上に分けると、ワクチン効果はその順に55.1%、59.9%、63.7%、81.3%と上がっていました。こうした成績を背景に、英国ではこのワクチンの2回目の接種を11~12週後と推奨したところです。

この報告には注目すべき点があります。解析対象の中に初回に半量を接種した2,798例(全例が英国の例)が含まれ、そのほとんど(2,742例)が9週以降に2回目を接種していたのです。彼らの前報(2)では、英国とブラジルにおける2020年11月4日までの11,636名でワクチン効果を解析し、全体のワクチン効果の70.4%に対し、初回に半量を接種した群のワクチン効果は90.0%で有意差がある(P=0.010)としていたのですが、どうやらこの差は、接種間隔を空ける方がワクチン効果は高くなる、という今回確認された特性(1)によるもののようです。初回に半量を接種していた例のほとんどが9週以降に2回目を接種していたからです。

なお、接種の間隔を開けた場合、「2回目までワクチン効果が持続するか?」が気になりますが、1回接種のみの例の22日目~90日目の間のワクチン効果は全体で76.0%(発症が17/9,257対71/9,237)であり(1)、2回目の接種までの間にも十分なワクチン効果を示すと思われます。この評価は変異株がまだ少なかった時期のものである点を考慮する必要がありますが、その後、2021年1月14日までの例を対象に英国で多い変異株(B.1.1.7)に関する解析が行われて、ワクチン効果は74.6%(3)と報告されていますから、AZD1222は、英国型と言われる変異株に対してワクチン効果が見込めると考えられます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Voysey M et al:Single-dose administration and the influence of the timing of the booster dose on immunogenicity and efficacy of ChAdOx1 nCoV-19 (AZD1222) vaccine : a pooled analysis of four randomised trials.  Lancet 397:881-891, 2021 https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00432-3.
(2)Voysey M et al:Safety and efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an interim analysis of four randomised controlled trials in Brazil, South Africa, and the UK. Lancet 1-13, Dec.8 2020. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)32661-1.
(3)Emary KRW et al:Efficacy of ChAdOx1 nCoV-19 (AZD1222) vaccine against SARS-CoV-2 VOC 202012/01 (B.1.1.7).  Preprints with the Lancet. https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3779160

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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