感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
運営会社: Van Medical
2021.02.16 病原体

目で見る病原体 ⑧緑膿菌 著者:斧 康雄

 

74歳女性の膿性痰のグラム染色像です。多数の細長いグラム陰性桿菌(菌体は粘液物質で包まれているようにみえる)がみられ、別視野でも多数の好中球と非ムコイド型グラム陰性桿菌の貪食像がみられました。本例は、特発性肺線維症のため免疫抑制薬の投与を受け、以前から慢性気道感染症の増悪を繰り返していました。今回は、サイトメガロウイルス肺炎と肺アスペルギルス症の診断で入院し、抗ウイルス薬や抗真菌薬投与により改善がみられていましたが、微熱、咳嗽、膿性痰の増加と、白血球数10,000/μL,CRP 5.5mg/dLと炎症所見の悪化を認めました。胸部X線写真では明らかな肺炎像はみられませんでしたが、採取した膿性痰のグラム染色所見から起炎菌としてPseudomonas aeruginosa[シュードモナス・エルギノーザ(緑膿菌)]による慢性気道感染症の急性増悪を考えました。イミペネム/シラスタチン(IPM/CS)1g/日、分2の点滴静注とトブラマイシン(TOB)180mg/日、分1の点滴静注の併用療法を開始しました。細菌培養でムコイド型のP. aeruginosaが分離され、薬剤感受性試験はカルバペネム系薬やアミノグリコシド系薬に感受性を示しましたが、ニューキノロン系薬と一部の第四世代セフェム系薬に耐性を示しました。上記抗菌薬療法により、徐々に解熱し、咳嗽や膿性痰の減少と炎症所見の改善がみられました。

本例から分離された緑膿菌は, グラム染色像で菌体周囲に莢膜様の粘液物質が淡い赤色に染色されましたが、菌体は肺炎桿菌に比べ細長い形態をしていました。寒天培地上のコロニーの形態では強いムコイド形成がみられました。一般に、緑膿菌の多くの株はピオシアニンを産生するためコロニーを形成した寒天培地は緑色の場合が多いのですが、本例のように赤色のピオルビンを産生する株では赤ワイン色に培地が変化することもあります。近年、カルバペネム系薬,アミノグリコシド系薬、ニューキノロン系薬の3剤に同時に耐性を示す多剤耐性緑膿菌(Multidrug-Resistant P. aeruginosa : MDRP)が検出されており、医療関連感染に注意が必要です。

〔画像出典〕
斧 康雄ほか:Gram strain 8.感染と抗菌薬 11(4):343-344,2008

著者プロフィール

斧 康雄(おの やすお)

帝京大学医学部微生物学講座 主任教授

感染症専門医/指導医、総合内科専門医、消化器病専門医、抗菌化学療法指導医、ICDなど。徳島大学医学部1981年卒業、医学博士(東京大学)。

一覧へ戻る
関連キーワード
関連書籍・雑誌
うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15

◆感染対策ポータルサイト「感染対策Online Van Medical」で2020年6月~7月に連載し,大好評を得た新型コロナうっかり間違いシリーズに,加筆・修正を加えついに待望の書籍化!
◆「レジのビニールカーテン」や「ランニング時のマスク」など,日常生活の新型コロナ感染対策の間違いを“感染対策のエキスパート”がわかりやすく解説。
◆さらに,書籍のみ収録のコンテンツ「新型コロナ感染対策の正解15」で,より理解を深められ,いつでも確認できる構成! コロナ禍を生きる人々に,今,最も必要とされる一冊!!

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2020年9月刊

ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20

◆大好評書籍「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」に続く,旅行・帰省で役立つ新型コロナ感染対策本!
◆感染対策ポータルサイト「感染対策Online Van Medical」で2020年8月に集中連載し,大好評を得たレジャーとコロナ対策シリーズを加筆・再編集。
◆「温泉・大浴場でコロナうつる?」や「食事中にコロナうつる?」など,気になる疑問に対する答えを“感染対策のエキスパート”がわかりやすく解説。Go To トラベルで往来が激しくなる中,安心に旅行するための必携書!!

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2020年11月刊

がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20

◆大好評書籍「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」,「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」(11月上旬発売)に続く,シリーズ第3弾! 受験生を守るための新型コロナ感染対策本!
◆感染対策ポータルサイト「感染対策Online Van Medical」で2020年10月に集中連載し,大好評を得た「受験生を守るコロナ感染対策」シリーズに,「インフルエンザ」「ノロ」対策も加え書籍化!
◆「試験会場・塾でのコロナの防ぎ方」や「家庭にコロナを持ち込まない方法」など,受験生を守るために実践すべき対策を,感染対策の“エキスパート”がわかりやすく解説。受験生の将来のために,受験生と親に必携の一冊!!

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2020年12月刊