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2021.02.03 病原体

目で見る病原体 ⑥モラクセラ・カタラーリス 著者:斧 康雄

 

92歳女性の膿性痰のグラム染色像です。多数のグラム陰性球菌と好中球に貪食された多数のグラム陰性球菌がみられました。本例は、基礎疾患に認知症と気管支拡張症があり、喀痰排出困難で呼吸状態が悪化し、近医で気管内挿管され搬送されました。入院時の体温は36.8℃でしたが、白血球数10,100/μL、CRP 9.2mg/dLと炎症所見がみられました。胸部単純X線写真で気管支拡張像の他に、右下肺野に軽度の浸潤影がみられたため肺炎と診断しました。グラム染色所見から、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)による肺炎を考え、メロペネム(MEPM)1g/日、分2点滴投与により徐々に解熱し、炎症所見の改善がみられたため、入院第15病日に転院となりました。

M. catarrhalisは、成人では慢性肺疾患(COPDなど)を有する患者に、気管支炎や肺炎などの下気道感染症を起こします。また、小児から成人までの年齢層において、中耳炎や副鼻腔炎などの耳鼻科領域感染症の起炎菌となります。稀に免疫不全患者では菌血症の合併もみられます。健常成人の上気道への定着率は約1~5%とされており、上咽頭への定着は乳児期にみられ、急性中耳炎の危険因子となります。本菌はβ-ラクタマーゼを産生するため、治療にはβ-ラクタマーゼ阻害薬とβ-ラクタム系薬の配合剤やセフトリアキソン(CTRX)などのセフェム系薬、ニューキノロン系薬、アジスロスロマイシン(AZM)などのマクロライド系薬が使用されます。

〔画像出典〕
斧 康雄ほか:Gram strain 6.感染と抗菌薬 11(2):111-112,2008

著者プロフィール

斧 康雄(おの やすお)

帝京大学医学部微生物学講座 主任教授

感染症専門医/指導医、総合内科専門医、消化器病専門医、抗菌化学療法指導医、ICDなど。徳島大学医学部1981年卒業、医学博士(東京大学)。

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