感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
運営会社: Van Medical
2021.02.02 病原体

目で見る病原体 ⑤A群溶血性レンサ球菌 著者:斧 康雄

 

43歳男性の右膝関節穿刺液のグラム染色像です。多数のグラム陽性のレンサ球菌と好中球(貪食像あり)がみられました。本例は、発熱と右膝の発赤腫脹と右前腕の発赤と水疱がみられ、某整形外科から紹介入院されました。入院時は、意識清明ですが低血圧状態でした。血液検査で WBC 2,500/μLと白血球数は減少していましたが、著明な核の左方移動(幼若系好中球の増加)がみられ、CRP 21.1mg/dLと重症感染症が示唆されました。肝機能障害と腎機能障害を認め、 CK 2,987IUと筋原性酵素の上昇もみられました。関節穿刺液のグラム染色所見とイムノクロマト法を用いた迅速検査で、起炎菌をA群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes:ストレプトコッカス・ピオゲネス)と判定しました。劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症を疑い、入院後は輸液療法に加えて、ベンジルペニシリン(PCG)とクリンダマイシン(CLDM)の併用療法を開始しましたが、入院3時間後に敗血症性ショックとなりました。その後、カルバペネム系薬の併用や免疫グロブリン製剤を追加投与しましたが、多臓器不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併して死亡されました。本例は、Streptococcal Toxic Shock Syndrome (STSS)を併発し、短時間で多臓器不全やDICを合併して死亡しましたが、入院時の血液培養検査でもS.pyogenes が検出されました。右膝化膿性関節炎あるいは右前腕の蜂窩織炎が原発感染病巣と考えられました。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(またはSTSS)は、1987年にA群溶血性レンサ球菌の感染によって起こる疾患として米国で最初に報告されました。典型例では、発熱、疼痛(通常四肢の疼痛)で突発的に発症し、急速に病状が進行して、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、 DICなどを引き起こし、ショック状態となる予後不良の疾患です。致死率は30%以上と報告されていますが、STSSの発生機序は未だ十分に解明されていません。近年では、A群溶血性レンサ球菌以外にも、B群、C群、G群を起因菌とした症例も報告され、幅広い年齢層で発症しています。劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、全数報告の対象疾患で、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所へ届け出る義務があります。

著者プロフィール

斧 康雄(おの やすお)

帝京大学医学部微生物学講座 主任教授

感染症専門医/指導医、総合内科専門医、消化器病専門医、抗菌化学療法指導医、ICDなど。徳島大学医学部1981年卒業、医学博士(東京大学)。

一覧へ戻る
関連キーワード
関連書籍・雑誌
うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15

◆感染対策ポータルサイト「感染対策Online Van Medical」で2020年6月~7月に連載し,大好評を得た新型コロナうっかり間違いシリーズに,加筆・修正を加えついに待望の書籍化!
◆「レジのビニールカーテン」や「ランニング時のマスク」など,日常生活の新型コロナ感染対策の間違いを“感染対策のエキスパート”がわかりやすく解説。
◆さらに,書籍のみ収録のコンテンツ「新型コロナ感染対策の正解15」で,より理解を深められ,いつでも確認できる構成! コロナ禍を生きる人々に,今,最も必要とされる一冊!!

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2020年9月刊

ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20

◆大好評書籍「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」に続く,旅行・帰省で役立つ新型コロナ感染対策本!
◆感染対策ポータルサイト「感染対策Online Van Medical」で2020年8月に集中連載し,大好評を得たレジャーとコロナ対策シリーズを加筆・再編集。
◆「温泉・大浴場でコロナうつる?」や「食事中にコロナうつる?」など,気になる疑問に対する答えを“感染対策のエキスパート”がわかりやすく解説。Go To トラベルで往来が激しくなる中,安心に旅行するための必携書!!

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2020年11月刊

がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20

◆大好評書籍「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」,「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」(11月上旬発売)に続く,シリーズ第3弾! 受験生を守るための新型コロナ感染対策本!
◆感染対策ポータルサイト「感染対策Online Van Medical」で2020年10月に集中連載し,大好評を得た「受験生を守るコロナ感染対策」シリーズに,「インフルエンザ」「ノロ」対策も加え書籍化!
◆「試験会場・塾でのコロナの防ぎ方」や「家庭にコロナを持ち込まない方法」など,受験生を守るために実践すべき対策を,感染対策の“エキスパート”がわかりやすく解説。受験生の将来のために,受験生と親に必携の一冊!!

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2020年12月刊