43歳男性の右膝関節穿刺液のグラム染色像です。多数のグラム陽性のレンサ球菌と好中球(貪食像あり)がみられました。本例は、発熱と右膝の発赤腫脹と右前腕の発赤と水疱がみられ、某整形外科から紹介入院されました。入院時は、意識清明ですが低血圧状態でした。血液検査で WBC 2,500/μLと白血球数は減少していましたが、著明な核の左方移動(幼若系好中球の増加)がみられ、CRP 21.1mg/dLと重症感染症が示唆されました。肝機能障害と腎機能障害を認め、 CK 2,987IUと筋原性酵素の上昇もみられました。関節穿刺液のグラム染色所見とイムノクロマト法を用いた迅速検査で、起炎菌をA群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes:ストレプトコッカス・ピオゲネス)と判定しました。劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症を疑い、入院後は輸液療法に加えて、ベンジルペニシリン(PCG)とクリンダマイシン(CLDM)の併用療法を開始しましたが、入院3時間後に敗血症性ショックとなりました。その後、カルバペネム系薬の併用や免疫グロブリン製剤を追加投与しましたが、多臓器不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併して死亡されました。本例は、Streptococcal Toxic Shock Syndrome (STSS)を併発し、短時間で多臓器不全やDICを合併して死亡しましたが、入院時の血液培養検査でもS.pyogenes が検出されました。右膝化膿性関節炎あるいは右前腕の蜂窩織炎が原発感染病巣と考えられました。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(またはSTSS)は、1987年にA群溶血性レンサ球菌の感染によって起こる疾患として米国で最初に報告されました。典型例では、発熱、疼痛(通常四肢の疼痛)で突発的に発症し、急速に病状が進行して、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、 DICなどを引き起こし、ショック状態となる予後不良の疾患です。致死率は30%以上と報告されていますが、STSSの発生機序は未だ十分に解明されていません。近年では、A群溶血性レンサ球菌以外にも、B群、C群、G群を起因菌とした症例も報告され、幅広い年齢層で発症しています。劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、全数報告の対象疾患で、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所へ届け出る義務があります。
〔画像出典〕
斧 康雄ほか:Gram strain 5.感染と抗菌薬 11(1):3-4,2008