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2021.02.15 病原体

目で見る病原体 ⑦インフルエンザ菌 著者:斧 康雄

 

62歳男性の膿性痰のグラム染色像です。多数のグラム陰性短桿菌と好中球(菌貪食像あり)とを認めました。慢性閉塞性肺疾患(COPD)で外来治療を受けていましたが、微熱、咳嗽、膿性痰の増加、労作時呼吸困難などがあり入院しました。入院時、体温37.8℃で、胸部所見でwheezeを聴取しました。白血球数 9,500/μL、CRP 9.3mg/dLと軽度の炎症所見と低酸素血症を認めました。胸部X線写真で肺気腫の所見はみられましたが、明らかな肺炎像を認めませんでした。Haemophilus influenzae(ヘモフィルス・インフルエンザ)による気管支炎と診断し、アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)3g/日、分2で点滴静注を開始したところ、翌日には解熱し、呼吸困難も軽減しました。喀痰培養でH.influenzae(++)が分離され、薬剤感受性試験はABPC、セフォタキシム(CTX)などのセフェム系薬やニューキノロン系薬に感受性を示しました。

本例は、H.influenzae によるCOPDの急性増悪例で、グラム染色所見から起炎菌が推定できた症例です。H.influenzae は、基礎疾患に慢性気管支炎や肺気腫、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、陳旧性肺結核、肺線維症などの慢性下気道病変を有する患者の急性増悪や慢性持続感染の起炎菌として最も高頻度に分離されます。本菌のグラム染色所見の特徴は、グラム陰性の短桿菌(一部球菌のようにみえる菌体もあり、球桿菌とも呼ばれる)が、白血球の多い部位にびまん性に分布してみられ、経験を積めば菌の推定は比較的容易です。本菌は上記のような基礎疾患を有する患者の気道系に持続感染したり、健常人においても咽頭に常在菌として定着するため、感染症を起こしているかどうかの判定は、発熱や咳嗽、膿性痰の増加などの臨床所見、白血球数やCRPなどの炎症所見、グラム染色所見や画像診断などで総合的に判断します。治療に際しては、本例分離H.influenzaeの薬剤感受性は良好でしたが、近年においてはβ-ラクタマーゼ産生株が約10%,β-ラクタマーゼ非産生ABPC耐性(BLNAR) 株が約 20~40%検出されているので、抗菌薬の選択に際しては注意が必要です。

著者プロフィール

斧 康雄(おの やすお)

帝京大学医学部微生物学講座 主任教授

感染症専門医/指導医、総合内科専門医、消化器病専門医、抗菌化学療法指導医、ICDなど。徳島大学医学部1981年卒業、医学博士(東京大学)。

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