感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
運営会社: Van Medical
2020.07.09 病原体

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策における環境消毒薬 著者:小野寺 直人

 

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、金属やプラスチック、ステンレス、段ボール上での生存期間に関する報告がされています。銅では4時間で、段ボールでは24時間後に生存が確認されなくなったのに比べ、感染力は低下したものの、ステンレスで48時間後、プラスチックで72時間後まで生存していました(1)。SARS-CoV-2 はインフルエンザウイルスと同様にエンベロープを有するため、アルコール(エタノール濃度60~90%・イソプロパノール70%を推奨)が有効です(2)。また、消毒用エタノールと同様に、中水準消毒薬である次亜塩素酸ナトリウム溶液(0.05%以上)も効果を示します。したがって、COVID-19に対する環境消毒として、患者周辺の高頻度接触環境表面や患者の皮膚に直接接触した器材(血圧計や体温計)は、これらの消毒薬を用いて清拭消毒することが重要です。“消毒効果や吸入毒性の観点から、消毒薬の噴霧は行ってはいけません。”

COVID-19流行によって、マスクのみならず擦式アルコール手指消毒薬や消毒用エタノールの不足が大きな問題となりました。その結果、比較的容易に入手可能な次亜塩素酸水の販売あるいは自治体から配布され、その使用頻度は増加しました。安全性が高く、噴霧による空間除菌も可能と紹介され、学校施設や会社、家庭でも使用されるようになりました。しかし、2020年6月に製品評価技術基盤機構(NITE)は、SARS-CoV-2の消毒目的で使用されている「次亜塩素酸水」について、清拭消毒で有効塩素濃度80ppm以上、掛け流して拭き取る場合で有効塩素濃度35ppm以上を必要としました。しかも、次亜塩素酸水の利用に当たっては、汚れ(有機物:手垢、油脂等)をあらかじめ除去し、対象物に対して十分な量を使用する必要があると述べています(3)。次亜塩素酸水は、塩素濃度や酸性度(pH)等の条件によって効果が変化します。手指消毒や空間噴霧の有効性・安全性は検証されていません。次亜塩素酸水の使用には十分注意すべきであり、現時点では確実な効果が保証されている消毒薬を使用することが望ましいと思われます。なお、家庭用洗剤でもSARS-CoV-2への効果が認められており、感染リスクに応じた消毒(清掃)の選択肢の一つとなります。

(著者:岩手医科大学附属病院感染制御部 副部長 小野寺 直人)

〔文献〕
(1)Doremalen NW et al:Aerosol and surface stability of HCoV-19(SARS-CoV-2) compared to SARS-CoV-1.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7217062/pdf/nihpp-2020.03.09.20033217.pdf
(2)日本環境感染学会:医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第3版.
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide3.pdf
(3)製品評価技術基盤機構(NITE):新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。~物品への消毒に活用できます~.
https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html

著者プロフィール

小野寺 直人(おのでら なおと)

岩手医科大学附属病院感染制御部 副部長

岩手医科大学医学部臨床検査医学講座に所属し、附属病院感染制御部を兼任。感染制御専門薬剤師・抗菌化学療法認定薬剤師を取得し、日本環境感染学会評議員・災害時感染制御検討委員および日本病院薬剤師会の感染制御専門薬剤師部門認定審査委員、岩手県感染制御支援チームICAT(副統括)活動に従事。

一覧へ戻る
関連書籍・雑誌
感染対策ICTジャーナル Vol.15 No.2 2020 特集:技術進歩とともに進化する  軟性内視鏡の感染管理

編集:東京女子医科大学医学部感染制御科 教授/同大学病院感染制御科 診療部長 満田 年宏
   山形大学医学部附属病院検査部 部長 病院教授・感染制御部 部長 森兼 啓太
   自治医科大学附属病院感染制御部長・感染症科(兼任)科長,自治医科大学感染免疫学 准教授 森澤 雄司


2020年4月刊

看護における 医療器材の取り扱いガイドブック~器材の再生処理・使用・保管管理~

◆ 看護師待望の看護現場特化の医療器材ガイドブックが登場。
◆ 再生処理(洗浄・消毒)の基本から看護現場での取り扱いまで,医療器材に関する
 すべてをカバー。
◆ 現場で欲しい最新情報・豆知識も豊富に盛り込まれ,あなたの「知りたかった」が満載。
◆ 医療器材の管理を一連の流れに沿って解説し,実践的な内容を効率的に習得できる,
 看護師必携の一冊!

東京医科歯科大学医学部附属病院 看護部 副看護部長 小野和代 編
2018年6月刊

見える!わかる!! 病原体はココにいます。

◆病院内の各区域のどこに病原体が存在しているのか?
◆気を付けるべき場所と病原体を見える化したまったく新しい書籍!

浜松医療センター 副院長 兼 感染症内科長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2015年2月刊