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2020.07.06 病原体

新型コロナウイルス第2波・第3波にそなえた感染対策(アルコール)―うっかりやりがちな感染対策の間違い 著者:矢野 邦夫

 

新型コロナウイルスの感染予防として、手指の清潔はとても大切です。そのためには、「石鹸と水道水による手洗い」もしくは「アルコール手指消毒薬によるアルコール手指消毒」を行います。アルコール手指消毒薬を用いる場合、アルコール濃度がとても重要です。低い濃度もしくは余りにも高い濃度では殺菌効果が減弱してしまうからです。しかし、巷の店頭に並んでいるアルコール手指消毒薬の中には濃度が記載されていないものがあります。そのような製剤を使用してもよいのでしょうか?

アルコール手指消毒薬ではエタノールが主成分ですが、それはどのように効果を発揮するのでしょうか? エタノールは病原体の蛋白を変性することによって効果を示します。米国疾病管理予防センターは60~95%のエタノールが最も効果的であり、これ以上の濃度では効き目が低下するとしています(1)。蛋白は水のないところでは容易には変性しないからです。

厚生労働省はエタノール濃度として「原則70~83%」としていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行によってエタノール製剤が入手しにくくなったことと、米国疾病管理予防センターが60~95%を推奨していることから、新型コロナウイルス感染症の流行期間中に限定して、70%以上のエタノールが入手困難な場合には、手指消毒用として、60%台のエタノールを使用しても差し支えないとしました(2)。

手指消毒薬として、エタノールの殺菌効果を期待するためには濃度が重要です。そのため、エタノール製剤を購入する時には、必ず濃度を確認しましょう。もし、濃度が記載されていなければ、メーカーに問い合わせるとよいでしょう。

スーパーマーケットの食品売り場などに行くと、カゴやカートが置いてあり、カートにカゴを乗せて買い物をすることがあります。この時、カートのグリップ部分は手指の高頻度接触表面であることから、使用前に消毒したくなります。それでは、アルコール手指消毒薬を流用して、握りの部分を消毒してもよいのでしょうか? すなわち、環境表面をアルコール手指消毒薬で消毒してもよいかということです。

小範囲の環境表面であれば、60~90%エタノールを消毒に使用しても構いません。しかし、エタノールはすぐに蒸発するので、広範囲の環境表面の消毒に使用することは困難です(3)。カートのグリップ部分であれば、それほどの広範囲ではないので、十分量のエタノールで消毒することは可能です。ただし、エタノールは長期間繰り返し使用すると、ゴムやプラスチックを変色させたり、ひび割れを引き起こす可能性があることは知っておいてください。

(著者:浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野 邦夫)

〔文献〕
(1)CDC:Guideline for hand hygiene in health-care settings, 2002.
https://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf
(2)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の発生に伴う高濃度エタノール製品の使用について (改定(その2))
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/200423_kiho_jimu2.pdf
(3)CDC:Guidelines for environmental infection control in health-care facilities, 2003
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/environmental-guidelines-P.pdf

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。

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