新型コロナウイルス感染症は高温・多湿に弱いという報道もあり、日本で唯一の亜熱帯地方である沖縄県では、新型コロナウイルス感染症は流行しないであろうと予測していました。しかしながら第一波では142症例を経験し、7症例(4.9%)が死亡されました。
2020年3月初旬に県外出張した際に、那覇空港は閑散としており、新型コロナウイルス感染症対策が功を奏していると感じていました。ところが3月下旬の県外出張で空港に行った際には、その混雑に驚きました。多くは若者であり、卒業旅行も含めた春休み観光でした。その後、沖縄県でも新型コロナウイルス感染症の新規患者が相次ぎました。
感染症指定医療機関である琉球大学病院でも多くの症例が診断され、また他院からの紹介入院もありました。我々は偽陽性症例1例、確定診断例17例の診療にあたり、1例の死亡例、1例の脳出血性梗塞も経験しました。治療方針を確立しつつ、協力医療機関に情報提供を行いました。診療に当たって感じたのは、新型コロナウイルス感染症は恐るべき感染症であるということでした。まず急速に悪化するものの誰が悪化するか予測できない、肺炎のみではなく全身の合併症を伴う、いったん感染するとウイルスがなかなか消失しない、などがその理由です。また回診をしていてあることに気づきました。症例の名前の多くが沖縄県民ではなく、東京または大阪と沖縄を行き来している方々が病床を占拠していました。
私は沖縄県の新型コロナウイルス感染症の専門家会議の座長を務めました。座長をしながら、この未知の感染症と対峙して、自身が専門家と言えるのだろうかと自問自答してきました。マスコミで取り上げられる専門家は、実際に診療に関わっていたのでしょうか。
沖縄県では、5月1日から8週間以上にわたって新規症例が報告されていません。最終的に学んだことは、感染症診療の原則である早期診断・早期治療が患者さんの予後を改善するということです。
(著者:琉球大学大学院感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科) 教授 藤田 次郎)