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2020.05.21 病原体

【Q&A】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬の開発は今、どのような状況でしょうか? ② 著者:渡辺 彰

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しては、本来の抗ウイルス薬以外にもいくつかの薬剤の有効性が検討されています。

気管支喘息治療薬のシクレソニド(オルベスコ®、帝人ファーマ㈱)は、国立感染症研究所のin vitroにおける検討で強い抗ウイルス活性が示され、これを受けて主に軽症例に使用しての有効性が個別に報告されています。現在、無症候~軽症の患者を対象として、肺炎の発症及び増悪を対症療法群と比較する多施設共同臨床試験が行われています。

マラリア治療薬のクロロキンと類似構造を持つヒドロキシクロロキン(プラケニル®、サノフィ㈱)は、国内では全身性エリテマトーデス(SLE)などに使われていますが、in vitroでレムデシビルと同等の抗ウイルス活性を示すとされています。欧米を中心に多くの臨床試験が行われていますが、心電図上でのQT間隔の延長が報告されています。

急性膵炎などの治療薬であるナファモスタット(フサン®、日医工㈱など)とカモスタット(フオイパン®、小野薬品工業㈱など)は蛋白質分解酵素阻害作用を有しますが、SARS-CoV-2の細胞内への侵入を阻止する可能性があるとされ、それぞれ臨床試験が開始/検討されています。

ノーベル賞を受賞した大村 智先生が米国Merck社と共同開発したイベルメクチン(ストロメクトール®、MSD㈱/マルホ㈱)は元々、寄生虫感染症の治療薬です。米国ユタ大学が北米や欧州、アジアの169医療機関でCOVID-19に対してイベルメクチンが投与された患者群704例と、他の薬剤による治療群704例の死亡率を比較し、1.4%対8.5%で同薬投与群が有意に優れていたと報告しています(1)。多施設の症例から背景を揃えた例を抽出して比較した研究であって、厳密なランダム化比較試験ではありませんが、同薬の作用機序としては、ウイルスのメインプロテアーゼの阻害作用およびインポーチン(種々の蛋白質を核内に輸送する機能を持つ蛋白質)の阻害作用が想定されており、国内でCOVID-19に対する医師主導の臨床試験が検討されています。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Patel AN, et al: Usefulness of ivermectin in COVID-19 illness. https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3580524.

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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