新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規治療薬の開発には年単位の時間を要しますので、まずは既存の薬剤から有効なものを選び出す必要があり、候補物質が種々検討されています。それらは大きく、COVID-19の病原体のSARS-CoV-2に直接作用する薬剤と、重症例で起こっているサイトカインストームや急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を改善させる薬剤の2つに分けられます。
既存の抗ウイルス薬として、レムデシビル(ベクルリー®、ギリアド・サイエンシズ㈱)とファビピラビル(アビガン®、富士フイルム富山化学㈱)、ロピナビル・リトナビル(カレトラ®、アッヴィ合同会社)が有望です。レムデシビルは、エボラ感染症の治療薬として開発されたRNAポリメラーゼ阻害薬ですが、コロナウイルスを含む多くのRNAウイルスに活性を示します。COVID-19では、米国に6日遅れて2020年5月7日、わが国でも特例承認されましたが、点滴静注薬の本剤は、酸素吸入が必要な患者以上の重症例への適応が承認されています。臨床試験が進行中ですが、急性腎障害や肝機能障害、infusion reactionに注意を要します。
ファビピラビルは、経口のRNAポリメラーゼ阻害薬であり、新型インフルエンザの治療薬として2014年に承認され、その後、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)やCOVID-19にも有効であることが判明しました。わが国ではCOVID-19の非重症例を対象に臨床試験が進行中ですが、臨床研究としても使用可能で、すでに3,000例以上の使用実績があり、一部の成績は日本感染症学会のホームページに報告されています(1)。軽症例へ早期から投与して効果が得られるようですが、動物で催奇形性が確認され、ヒトの臨床試験で尿酸値上昇などが報告されています。
ロピナビル・リトナビルはプロテアーゼ阻害薬であり、HIV感染症治療薬として使用されていますが、コロナウイルスによる中東呼吸器症候群(MERS)への有効性が示唆されていました。COVID-19では中国を中心に複数の臨床試験が行われていますが、本剤非投与群との間に臨床改善までの時間に有意差はなかったとする報告がThe New England Journal of Medicine誌に掲載されました(2)。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)http://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31#case_reports
(2)Cao B, et al: A trial of ropinavir–ritonavir in adults hospitalized with severe Covid-19. N Engl J Med 382(19):1787-1799, 2020