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2020.05.23 病原体

【Q&A】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、感染率や重症化率が欧米と日本などのアジア地区では大きな開きがあるようですが、なぜでしょうか? 著者:渡辺 彰

 

確かに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の単位人口当たりの感染者や死亡者の比率は、日本などのアジア地区では低く、欧米では高いのが現状です。特に感染率(罹患率とも言う)では10倍から100倍の差がありますが、医療環境や保険制度の違いによるものでしょうか? ドイツは 医療環境が充実しており、他の欧米諸国よりは格段に低い死亡率なのですが、そのドイツと感染者数が近いトルコは、医療環境はドイツに及ばないものの、感染者中の死亡率はドイツの約半分です。

BCG接種の有無で説明しようという考えもあります。同じ欧米でも、BCGを今も接種しているロシアは確かに死亡率が低いですから、うなずけそうです。しかし、ロシアの罹患率は、同じくBCGを今も接種している日本や韓国、中国の約10倍です。何が違うのでしょうか? ヒト白血球抗原(HLA: Human Leucocyte Antigen)型の分布と相関するのではないか? という考えがあります。

HLA型とは、分かりやすく言えば白血球の血液型であって多種多様あり、人種や民族間で大きな偏りがあります。その多様性は、人類がその長い歴史の中で幾度も致命的な感染症に遭遇し、特定のHLA型を持つ集団が生き残ることを繰り返した結果だと言われています。HLA型が異なると特定の病原体や抗原に対する免疫応答が異なり、感染症に対する抵抗性が大きく異なるのです。2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS: Severe Acute Respiratory Syndrome)の際、台湾でSARS患者とそれ以外の人のHLA型別分析を行った結果、HLA-B 4601及びHLA-B 5401が罹患率と有意に相関し、特に前者は死亡例や挿管施行例で有意に多かったという報告(1)があります。

SARSでは日本人の感染者はゼロでした。2009年の新型インフルエンザでは日本の死亡率は世界中でも際立って低く、100年前のスペインかぜもそうでした。COVID-19における各国の罹患率と死亡率の差はHLA型の違いによる差かも知れません。また、重症化する例と無症状~軽症で済む例の差も、HLA型の違いによるものかも知れません。今後の研究の進展が望まれます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Lin M, et al: Association of HLA classⅠ with severe acute respiratory syndrome coronavirus infection. BMC Med Genet 4:9-15, 2003

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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