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2020.05.25 病原体

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行後の小児感染症の流行はどうなるか? 著者:森岡 一朗

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が収まる兆しを見せています。緊急事態宣言も解除された地域も多くなり、これからは新たな日常生活が始まります。そこで、例年流行する小児感染症の流行は今後どのようになるかを予測してみます。

東京都感染症情報センターの定点報告で2019年と2020年の同じ第20週(5月第3週)の時のデータを比較しますと、インフルエンザは2019年が361人に対し2020年は0人、同様にRSウイルス感染症は55人が0人、咽頭結膜熱は82人が5人、溶連菌による咽頭炎は834人が83人、感染性胃腸炎は2,104人が291人、突発性発疹は146人が70人のように、東京都の定点報告数は2019年に比して2020年はすべての感染症で大きく減っています(1)。この原因は、ウイルス間の干渉の影響よりも、COVID-19の流行による受診抑制の影響、国民の生活様式の変化、衛生に関する意識の高まりなどが原因と推測します。

■受診抑制やオンライン診療の影響

今後も受診抑制が継続したり、新たな診療体制としてのオンライン診療が普及すると、実際に医療機関を対面で受診する人数が減り、定点医療機関での検査が今より減ることが考えられます。そうしますと、臨床診断ではなく、迅速検査診断を主に用いて診断していた疾患は、この定点報告は例年とは異なる解釈をする必要が出てきます。今まで定点あたりの報告数を用いて小児感染症の流行の注意報や警報が出されてきましたが、今期はこの数字を用いた流行予測が困難となる可能性があります。

■国民の衛生に関する意識の高まりと感染対策の遵守の向上の影響

COVID-19により学校や保育園においても衛生に関する意識が高まり、今まで以上に感染対策が厳重に行われることが想定されます。その結果、小児の流行性疾患が抑制される可能性があり、流行を予測する動きを捉えにくくなる可能性があります。

今後、保育園や学校が始まって日常生活が戻り、小児感染性疾患の流行は昨年と同じように起こることが推測されますが、その流行カーブの山は小さくなる、あるいは、見えにくくなる可能性があります。定点報告数は、地域の流行を捉えるわかりやすい方法ですが、今年は例年と異なった解釈をする必要がありそうです。

(著者:日本大学医学部小児科学系小児科学分野 主任教授 森岡 一朗)

〔文献〕
(1)東京都感染症情報センター:https://survey.tokyo-eiken.go.jp/epidinfo/weeklyhc.do(2020年5月24日アクセス)

著者プロフィール

森岡 一朗(もりおか いちろう)

日本大学医学部小児科学系小児科学分野 主任教授

日本小児科学会小児科専門医・指導医、日本周産期・新生児医学会周産期(新生児)専門医・指導医。日本小児科学会の理事、日本新生児成育医学会の理事・予防接種感染対策委員長を務める。専門は、新生児・小児感染症、新生児医学、小児の成長・発達。これらに関する英文学術論文を多く発表している。主な著書に、日常診療と看護ケアのためのNICU感染対策(ヴァンメディカル刊)、新生児学テキスト(メディカ出版刊)がある。

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