2020年4月現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的なパンデミックを呈し、多くの死亡が報告されています。2014年にわが国で承認された新型インフルエンザ治療薬のアビガン®(ファビピラビル)が、COVID-19の治療薬としても期待されていますが、アビガン®が効く理由と臨床効果はどうなのでしょうか?
アビガン®は、RNAが合成される際に利用される物質と構造が似ており、多くのRNAウイルスの持つRNA依存性RNA合成酵素(RdRp)がアビガン®を誤って取り込んでしまうためRNAの伸長が停止する、という機序で抗ウイルス活性を示します。インフルエンザウイルスでは、特に致死性の高いインフルエンザウイルスを用いたマウス感染治療実験でタミフル®より高い治療効果が示され、エボラ感染症や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)でも検討が進んでいます。COVID-19に対してはどうなのでしょうか?
ファビピラビルの新型コロナウイルスに対する活性は、エボラウイルスに対する活性と同程度と報告されており(Antiviral Res 105:17-21,2014、Cell Res 30:269-271,2020)、COVID-19に関しても、新型インフルエンザの場合と同じ用量による中国の治療成績が判明しています(論文掲載予定)。武漢ではarbidol(ウイルスの侵入阻害薬)を対照として7日間投与し(116例対120例)、基礎疾患のない例における臨床的回復率(71.4%対55.9%)が有意に優れるとし(Chen C et al:medRxiv:Mar 17,2020)、深圳ではIFN-αを両群共に併用しながら抗HIV薬のカレトラ®を対照として14日間投与し(35例対45例)、ウイルスの消失(平均4日対11日)と胸部画像の改善率(91.4%対62.2%)がいずれも有意に優れる(Cai Q et al:Engineering:Mar 18,2020)としています。
発症12日までを対象とした武漢に対し、発症7日未満を対象とした深圳の方が成績は良く、早期投与開始が重要と思われます。しかし、武漢の例でも解熱や咳の改善が有意に優れており、一方で尿酸値の上昇(16例対3例)が有意に多く見られました。わが国でも、用量をもう少し高くしたアビガン®の臨床試験が進行中であり、期待されるところです。