新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症例では、過剰な免疫反応によるサイトカインストームや急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が起っていることが多く(1-3)、その治療薬が種々検討されています。具体的には、IL-6をはじめとする各種のサイトカインの阻害薬や、サイトカインによる刺激を伝達するJAK(ヤヌスキナーゼ)の阻害薬などです。
関節リウマチの治療に用いられるIL-6阻害薬のトシリズマブ(アクテムラ®、中外製薬㈱/ロシュ社)では、低酸素血症が進行して重篤なCOVID-19の患者21例に投与し、18例で改善が得られたとの報告があります(4)。現在、海外と国内でそれぞれ臨床第Ⅲ相試験が行われており、IL-6阻害薬のサリルマブ(ケブザラ®、サノフィ社/リジェネロン社)も同様に臨床試験を行っています。
同じ関節リウマチ治療薬でもJAK阻害薬では、トファシチニブ(ゼルヤンツ®、ファイザー社)が欧州で医師主導臨床試験を行っており、バリシチニブ(オルミエント®、イーライリリー)が米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)主導の臨床試験を米国で行っています。骨髄線維症などに使われるルキソリチニブ(ジャカビ®、ノバルティス社)も臨床第Ⅲ相試験を準備中です。
重症敗血症を対象とした開発が中断していたエリトラン(未承認、エーザイ㈱)は、サイトカイン産生の最上流にあるToll様受容体4(TLR4)の活性化を阻害しますが、COVID-19を対象とした国際共同治験が行われる予定です。
ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬であるイブジラストは、日本ではケタス®(杏林製薬㈱)として脳血管障害・気管支喘息に使われていますが、これを多発性硬化症治療薬として開発中の米メディシノバ社が、米イェール大学と共同でCOVID-19によるARDSを対象とした臨床試験を始めています。
ARDSを制御する目的ではこの他にも、体性幹細胞や抗アンジオポエチン2(Ang2、ARDS患者で増加する)抗体LY3127804の臨床試験が行われており、COVID-19の重症例、とりわけARDSを発症した重症例の改善が期待されます。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)Chen N, et al: Epidemiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet 395:507-513, 2020
(2)Guan WJ, et al: Clinical characteristics of coronavirus disease 2019 in China. N Engl J Med 382:1708-1720, 2020
(3)Huang C, et al: Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet 395:497-506, 2020.
(4)Xu X, et al: Effective treatment of severe COVID-19 patients with tocilizumab. Proc Natl Acad Sci USA Latest Articles 1-6, Feb 15, 2020 https://www.pnas.org/content/pnas/early/2020/04/27/2005615117.full.pdf