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2020.05.18 病原体

【Q&A】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に似た症状の呼吸器感染症にはどのようなものがありますか? 著者:渡辺 彰

 

筆者の地域では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を疑ったものの、実際には排菌陽性の結核だった症例がありました。埼玉医科大学は、臨床医の判断で行ったPCR検査で陽性だったのは11.2%と報告しています(1)。感染症科のみでは24.7%とのことですが、COVID-19と似た疾患は多いということです。どのようなものがあるのでしょうか? その前に、COVID-19の症状を押さえておきましょう。

国立感染症研究所(2)や米国疾病管理予防センター(CDC)(3)は、COVID-19の主要症状が「発熱・咳・息切れ」の3つであり、それぞれ60~80%の症例で認められるとしています。国立感染症研究所ではこれに次いで、全身倦怠感47%、咽頭痛29%、鼻汁・鼻閉25%、頭痛24%、下痢19%、関節・筋肉痛14%、嘔気・嘔吐6%、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)4%、結膜充血2%を報告しています。嗅覚・味覚障害が話題になっていますが、他のウイルス感染症でも出現します。先に挙げた諸症状も他の呼吸器感染症で普遍的に見られますが、紛らわしい主な感染症について診断を導くポイントと共に見てみましょう。

インフルエンザも流行性疾患なので、地域の流行状況の把握と迅速抗原検査が有用です。インフルエンザやCOVID-19以外の通常のウイルス性肺炎は、重症化する例は少なく、症状や症候の程度・強さでも鑑別可能です。細菌性肺炎は、胸部のX線像及びCT像による鑑別が有用です。マイコプラズマやクラミジアによる非定型肺炎は、周囲の流行状況や動物を含めた接触歴の聴取と抗原検査や抗体検査が有用ですが、細菌性肺炎を含めて1~2日の抗菌薬投与による治療的診断を試みてもよいと考えます。結核は、画像が鑑別のポイントですが、病歴の聴取と喀痰検査、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)[クォンティフェロン(QFT)やT-SPOT]等の検査を組み合わせましょう。肺胞を支える間質に炎症が起こって通常の肺炎より重症化しやすい間質性肺炎の原因には、薬剤性や放射線照射後、膠原病への合併などがありますが、原因不明のものが多いので専門医へのコンサルトを考えましょう。

鑑別すべき疾患は他にもありますが、先入観にとらわれず、正確に見極めたいものです。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰)

〔文 献〕
(1)佐々木秀悟ら:臨床医の判断で SARS CoV-2 PCR 検査を施行した際の陽性率およびリスク因子に関する検討.日本感染症学会ホームページ.症例報告.http://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31#case_reports
(2)https://www.niid.go.jp/niid/ja/covid-19/9533-covid19-14-200323.html
(3)https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/symptoms-testing/symptoms.html

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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