2020年5月に入り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患が多い欧米から、川崎病様の症候を示す小児の報告が出始めました。5月4日、米国ニューヨーク市の保健局は、2~15歳の15人で高熱や発疹、腹痛、吐気、下痢などがみられ、この「多臓器炎症型疾患」が川崎病と酷似していると報告しました。15人中10人がCOVID-19のPCR検査や抗体検査で陽性が判明していますが、死亡例はないようです。
川崎病は、川崎富作博士が1967年に「小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群」として発表した病因不明の小児の疾患です。特異的診断法はなく、厚生労働班研究の診断基準では6つの主要症状を挙げてその5つ以上を満たすものとしています。発症には感染要因や遺伝的要因が示唆されていますが、季節性(冬に多く、早春と初秋に減少)や地域性があることから何らかの感染症に付随する病態である可能性が指摘されています。
川崎病の治療の第一選択はγ-グロブリン超大量療法(IVIG)+アスピリンですが、IVIG不応例への追加療法にステロイド薬と並んでインフリキシマブ(レミケード®、TNF-αを阻害)が挙げられ、適応も承認されています。同薬は、主にリウマチなどの免疫性炎症性疾患の治療薬であり、過剰に産生された免疫を抑えるものですが、同じくリウマチなどの治療薬であるトシリズマブ(アクテムラ®、IL-6を阻害)がCOVID-19に有効なようだという報告も最近出ています。
COVID-19では病原ウイルスのSARS-CoV-2に対して免疫系が過剰に発動する個体が一部にあり、成人でARDS(急性呼吸窮迫症候群)を発現したり小児で川崎病様の病態を発現したりする可能性があります。ARDSでは、ステロイド薬を含む免疫抑制性薬剤で病態を改善させ得た症例も多く報告されていますから、今回の報告は今後のCOVID-19の治療だけでなく、川崎病の治療を考える上でも参考になります。
長らく病因不明であった川崎病は、SARS-CoV-2を含むコロナウイルス一般(7種類あり)に特有の何らかの抗原成分に対するヒト免疫の過剰発現が病因である可能性が強く示唆されたと言えます。