WHOの暫定ガイドラインを含め、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にはステロイド薬を投与すべきでないとする意見が多く見られ、根拠として、ウイルスのクリアランスを遅延させたり各種の合併症を生じたり、などの報告が引用されています。しかし、その殆どが観察研究であり、重症例ほどステロイド薬が使われて死亡率が高くなる可能性が指摘されています。
COVID-19では、発症後の免疫抗体の力価が高いほど臨床的重症度が高いという報告があり(1)、2002年に出現したSARS(重症急性呼吸器症候群)でも同様の報告があります(2)。過剰な免疫の産生が高度な炎症であるサイトカインストームを起こすと考えられますが、過剰な免疫が宿主の肺組織を攻撃すればARDS(急性呼吸窮迫症候群)が起こります。COVID-19の重症例の合併症で最も多いのがARDSです(3)が、そのARDS合併例にステロイド薬の使われた症例が日本でも報告されています。
日本感染症学会のホームページに設けてあるCOVID-19の症例報告サイト(http://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31#case_reports)には、2020年2月5日以来4月末日まで80編以上の症例報告が掲載されています。経過観察のみの例や、診断確定後あるいはECMO(体外式膜型人工肺)導入などのために専門施設へ転送されて経過が不明な例を含めると400例以上が集積されていますが、メチルプレドニゾロンを中心としたステロイド薬の投与例が23例報告されています。
入院時のショック状態や喘息症状に対して1回だけ投与されたり、症状が重篤ではない内からARDSの予防目的で投与されたりした例もありますが、多くはARDSの発現・重篤化に対し、ファビピラビル(アビガン®)などの抗ウイルス薬その他のCOVID-19治療薬および各種のARDS治療と共に、主にミニパルス療法の形で投与されています。経過・転帰の明らかな例の80%弱が改善しており、ステロイド薬の投与が病態を悪化させたと考えられる例は見当たらないようです。以上よりステロイド薬の投与は、ARDS発現例を主な対象に、抗ウイルス薬その他のCOVID-19治療薬および各種のARDS治療と共に、早期の短期間ミニパルス療法を考えてよいでしょう。
〔文献〕
(1)Huang C et al: Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet 395:497-506, 2020. doi:10.1016/S0140-6736(20)30183-5.
(2)Mei-Shang Ho et al: Neutralizing antibody response and SARS severity. Emerg Infect Dis 11:1730-1737, 2005.
(3)Guan W et al: Clinical characteristics of coronavirus disease 2019 in China. NEJM 382:1708-1720, 2020. doi:10.1056/NEJMoa2002032