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2020.05.21 病原体

【Q&A】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬の開発は今、どのような状況でしょうか? ③ 著者:渡辺 彰

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症例では、過剰な免疫反応によるサイトカインストームや急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が起っていることが多く(1-3)、その治療薬が種々検討されています。具体的には、IL-6をはじめとする各種のサイトカインの阻害薬や、サイトカインによる刺激を伝達するJAK(ヤヌスキナーゼ)の阻害薬などです。

関節リウマチの治療に用いられるIL-6阻害薬のトシリズマブ(アクテムラ®、中外製薬㈱/ロシュ社)では、低酸素血症が進行して重篤なCOVID-19の患者21例に投与し、18例で改善が得られたとの報告があります(4)。現在、海外と国内でそれぞれ臨床第Ⅲ相試験が行われており、IL-6阻害薬のサリルマブ(ケブザラ®、サノフィ社/リジェネロン社)も同様に臨床試験を行っています。

同じ関節リウマチ治療薬でもJAK阻害薬では、トファシチニブ(ゼルヤンツ®、ファイザー社)が欧州で医師主導臨床試験を行っており、バリシチニブ(オルミエント®、イーライリリー)が米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)主導の臨床試験を米国で行っています。骨髄線維症などに使われるルキソリチニブ(ジャカビ®、ノバルティス社)も臨床第Ⅲ相試験を準備中です。

重症敗血症を対象とした開発が中断していたエリトラン(未承認、エーザイ㈱)は、サイトカイン産生の最上流にあるToll様受容体4(TLR4)の活性化を阻害しますが、COVID-19を対象とした国際共同治験が行われる予定です。

ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬であるイブジラストは、日本ではケタス®(杏林製薬㈱)として脳血管障害・気管支喘息に使われていますが、これを多発性硬化症治療薬として開発中の米メディシノバ社が、米イェール大学と共同でCOVID-19によるARDSを対象とした臨床試験を始めています。

ARDSを制御する目的ではこの他にも、体性幹細胞や抗アンジオポエチン2(Ang2、ARDS患者で増加する)抗体LY3127804の臨床試験が行われており、COVID-19の重症例、とりわけARDSを発症した重症例の改善が期待されます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Chen N, et al: Epidemiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet 395:507-513, 2020
(2)Guan WJ, et al: Clinical characteristics of coronavirus disease 2019 in China. N Engl J Med 382:1708-1720, 2020
(3)Huang C, et al: Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet 395:497-506, 2020.
(4)Xu X, et al: Effective treatment of severe COVID-19 patients with tocilizumab. Proc Natl Acad Sci USA Latest Articles 1-6, Feb 15, 2020 https://www.pnas.org/content/pnas/early/2020/04/27/2005615117.full.pdf

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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