ESBLは「基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase)」の略語です。酵素の名前であり、細菌名ではありません。この酵素を産生する細菌をESBL産生菌と言います。
ペニシリナーゼはペニシリンを分解するβラクタマーゼですが、基本的にセファロスポリン系は分解できません。この遺伝子に突然変異がみられて、分解可能な抗菌薬の種類が広がり、第3世代以降のセファロスポリン系も分解することができるβラクタマーゼが出来上がりました。これをESBLと言います。ESBLは1種類のβラクタマーゼではありません。TEM型、SHV型、CTX-M型などがあり、それぞれの中に、さらに数多くの種類があります。現在はCTX-M型が世界の主流となってきています。
ESBL産生菌はセファマイシン系やカルバペネム系を除き、ほとんどのペニシリン系、セファロスポリン系、モノバクタム系に耐性を示します。ESBL産生遺伝子は薬剤耐性プラスミド上に存在するので、細菌から細菌に移動できます。そして、移動先の細菌もESBLを産生するようになるので、耐性化します。同菌種間はもとより、肺炎桿菌から大腸菌というように、腸内細菌科細菌を中心としたグラム陰性桿菌において遺伝子は拡散しています。このため、ESBL産生菌には肺炎桿菌や大腸菌が多かったのが、プロテウス属、セラチア属、エンテロバクター属など多菌種に広がっています。この菌種は今後さらに増えてゆくのではと心配されています。
ESBL産生菌は1983年にヨーロッパで最初に報告されました。それ以降、ESBL産生菌は世界中の臨床検体から分離されるようになりました。日本では、1995年に初めて報告され、2000年頃より増加しています。ESBL産生菌による感染症のリスクファクターは、長期入院、長期間の人工呼吸器管理、尿道留置カテーテルや中心静脈カテーテルの長期留置、抗菌薬の使用などがありますが、入院歴のない一般の人からも分離されるようになってきました。ESBL産生菌の割合は国、地域、病院ごとに異なっています。また、細菌によっても違いがあります。ESBL産生菌による感染症には尿路感染症、肺炎、手術部位感染症、腹腔内感染症などがあります。