感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
運営会社: Van Medical
2020.03.27 病原体

この耐性菌言えますか?⑤ESBL産生菌 著者:矢野 邦夫

 

ESBLは「基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase)」の略語です。酵素の名前であり、細菌名ではありません。この酵素を産生する細菌をESBL産生菌と言います。

ペニシリナーゼはペニシリンを分解するβラクタマーゼですが、基本的にセファロスポリン系は分解できません。この遺伝子に突然変異がみられて、分解可能な抗菌薬の種類が広がり、第3世代以降のセファロスポリン系も分解することができるβラクタマーゼが出来上がりました。これをESBLと言います。ESBLは1種類のβラクタマーゼではありません。TEM型、SHV型、CTX-M型などがあり、それぞれの中に、さらに数多くの種類があります。現在はCTX-M型が世界の主流となってきています。

ESBL産生菌はセファマイシン系やカルバペネム系を除き、ほとんどのペニシリン系、セファロスポリン系、モノバクタム系に耐性を示します。ESBL産生遺伝子は薬剤耐性プラスミド上に存在するので、細菌から細菌に移動できます。そして、移動先の細菌もESBLを産生するようになるので、耐性化します。同菌種間はもとより、肺炎桿菌から大腸菌というように、腸内細菌科細菌を中心としたグラム陰性桿菌において遺伝子は拡散しています。このため、ESBL産生菌には肺炎桿菌や大腸菌が多かったのが、プロテウス属、セラチア属、エンテロバクター属など多菌種に広がっています。この菌種は今後さらに増えてゆくのではと心配されています。

ESBL産生菌は1983年にヨーロッパで最初に報告されました。それ以降、ESBL産生菌は世界中の臨床検体から分離されるようになりました。日本では、1995年に初めて報告され、2000年頃より増加しています。ESBL産生菌による感染症のリスクファクターは、長期入院、長期間の人工呼吸器管理、尿道留置カテーテルや中心静脈カテーテルの長期留置、抗菌薬の使用などがありますが、入院歴のない一般の人からも分離されるようになってきました。ESBL産生菌の割合は国、地域、病院ごとに異なっています。また、細菌によっても違いがあります。ESBL産生菌による感染症には尿路感染症、肺炎、手術部位感染症、腹腔内感染症などがあります。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。

一覧へ戻る
関連キーワード
関連書籍・雑誌
知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP

◆耐性菌の蔓延・曝露を防ぐには,まず相手を知ることが重要です。
◆現在臨床現場で問題となっている主な耐性菌3つを取り上げ,感染対策マスターの著者が,これまで集積してきた知識を噛み砕いて,耐性菌の特性から治療法・感染対策の具体策・看護ケアのポイントまでわかりやすく解説します。
◆患者さんに接する機会が最も多い,看護師の方必携の一冊です。

浜松医療センター 副院長 兼 感染症内科長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2014年2月刊

感染対策ICTジャーナル Vol.14 No.3 2019 特集:何が同じで,どこが違う? 現場向けESBL産生菌・CRE(CPE)対策

編集:東北医科薬科大学医学部感染症学教室 特任教授 賀来 満夫
   東京女子医科大学医学部感染制御科 教授/同大学病院感染制御科 診療部長 満田 年宏
   山形大学医学部附属病院検査部 部長 病院教授・感染制御部 部長 森兼 啓太
   自治医科大学附属病院感染制御部長・感染症科(兼任)科長,自治医科大学感染免疫学 准教授 森澤 雄司


2019年7月刊

カテーテル関連尿路感染予防のためのCDCガイドライン2009

世界中の感染対策の指針となるCDCガイドライン。
感染対策に精通する訳者が,独自の注釈を加え,ポイントをわかりやすく紹介!
感染対策必携の1冊!

公立大学法人 横浜市立大学附属病院感染制御部 部長・准教授 満田年宏 訳・著
2010年2月刊