VREは「バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci)」の略語です。腸球菌にはエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)やエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)などがあります。これらがバンコマイシンに耐性になるとVREと呼ばれることになります。日常遭遇する腸球菌のほとんどがエンテロコッカス・フェカーリスなのですが、バンコマイシン耐性の腸球菌になると比率が変わり、エンテロコッカス・フェシウムの割合が増えます。バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウムはβラクタム系薬やアミノグリコシド系薬にも高度耐性ですが、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェカーリスはβラクタム系薬には感受性があるのが普通です。
VREは1980年代に欧州で報告されました。欧州でのVREの出現が家畜の飼料添加用成長促進剤として餌に20年以上加えられてきたアボパルシンという抗菌薬の使用に関係しているといわれています。アボパルシンはバンコマイシンと交差耐性があるため、ヨーロッパにおいて家畜への使用が禁止されました。
米国ではVREの分離頻度が高く、VRE感染症が様々な病棟(集中治療室、内科病棟、小児科病棟)で報告されています。日本での分離頻度は高くありませんが、VREの報告数が増加しており、諸外国のような状況になるのではと危惧されています。
VREによる感染症には尿路感染症、菌血症、心内膜炎、髄膜炎などがあります。ただ、喀痰や尿などの培養検体からVREが分離されたとしても、必ず治療が必要ということはありません。保菌である可能性が高いからです。しかし、血液培養や髄液培養のように無菌組織から得られた検体でVREが検出された場合には菌血症や髄膜炎を疑い、迅速な治療が必要となります。
VREが検出される頻度は尿路系で最も高く、膀胱炎、腎盂腎炎、腎周囲膿瘍、前立腺炎などがあります。そのほとんどが院内感染であり、尿路系の閉塞、尿道カテーテルや器具によって引き起こされています。この場合の対処法は尿道カテーテルの抜去となります。菌血症については、血流への侵入口として腸管、尿路、血管内カテーテル、創部(潰瘍や熱傷)があります。バンコマイシン耐性腸球菌感染症は感染症法の全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ます。