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2020.03.27 領域・分野別

今さら聞けない! 標準予防策 ④患者の配置 著者:矢野 邦夫

 

患者をどの病室に入室させるかということは感染対策において重要なことです。まず、病原体の伝播経路と感染経路別予防策の必要性について考えます。接触予防策(角化型疥癬など)や飛沫予防策〔インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など)が必要な患者は個室に入室させます。そして、空気予防策が必要な患者(結核、麻疹、水痘)であれば空気感染隔離室に入室させることになります。飛沫感染する感染症の患者であっても、挿管や人工呼吸器が必要となる場合はエアロゾルが産生される可能性があるので、空気感染隔離室に入室させます。空気感染隔離室は室内の空気圧が隣接区域よりも陰圧となるように設定されている病室です。

インフルエンザやCOVID-19などの流行によって多数の感染者が入院することとなり、個室が不足することがあります。この場合はコホーティングを実施します。コホーティングは同じ微生物を保菌または発症している患者を寄せ集める行為であり、同一の感染症の患者のケアを1つの区域に限定することによって他の患者との接触を予防することを目的としています。

感染症患者が周辺の人々に病原体を伝播させる振る舞いをするかどうかについても患者配置で考慮します。例えば、耐性菌を保菌や発症している患者が認知症であり、手指衛生が十分にできず、徘徊しているならば、周囲の人々や環境表面に病原体を付着させる危険性があるので、個室が必要です。また、同室者の状況についても考慮します。大手術後の患者や免疫不全の患者のように、感染症に罹患することによって、重篤になったり、死に至る可能性がある患者がいる病室に、感染症を罹患している患者を同室させることはできません。

感染症と患者の状態だけが、患者の配置の決定のための要素ではありません。年齢、精神状態、スタッフの必要性、本人の希望、心理・社会的要因なども考慮しなければなりません。幼児であれば個室に入院させ、母親の付き添いが可能になるようにします。暴力的な患者は個室で監視する必要があります。血圧が不安定であったり、呼吸状態の悪い患者はナースステーションの近くの個室に入室させるのが望ましいと思います。患者の人格や性格から、他人と同室が困難な人がいますが、このような人も個室が必要です。がん末期の患者では、安楽を考えて、本人が望めば、個室がよいかもしれません。政治家や芸能人などが大部屋に入院すると他の患者や面会者との関係が煩雑になることが予想されるので、個室が必要かもしれません。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。

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