MRRPは「多剤耐性緑膿菌(multiple drug resistant Pseudomonas aeruginosa)」の略語です。まず、緑膿菌について解説したいと思います。緑膿菌は水、土壌、植物などの環境に生息しています。病院内では流し台、水道の蛇口、病室の花瓶、便所の便器などに住み着いています。ヒトの腸管にも保菌されていることがあります。緑膿菌は栄養環境が不十分であっても容易に生育することができるので、さまざまなところで生息できるのです。緑膿菌はもともと様々な抗菌薬に耐性を示していますが、カルバペネム系、アミノグリコシド系、キノロン系の抗菌薬には感受性があります。MDRPはこれら3系統の抗菌薬に耐性を示す緑膿菌です。
MRRPは抗菌薬から身を守るために様々な耐性機序を持ち合わせています。まず、バイオフィルムやムコイドを形成して、抗菌薬が細菌に近づけないように防御しています。βラクタマーゼを放出し、抗菌薬を壊してしまいます。D2ポーリン(抗菌薬が細菌内に入る孔)の数を減らして、抗菌薬が菌体の中に入らないように阻止しています。抗菌薬が菌体の中に入っても、排出ポンプを機動させて、抗菌薬を外部に汲み出してしまいます。アミノグリコシド修飾不活化酵素によって、アミノグリコシドの抗菌活性を不活化します。抗菌薬の標的部位を変異させてキノロンに耐性となります。
健康な人が緑膿菌を保菌しても何も問題は起こりません。これはMDRPであっても同じです。MDRPが喀痰などから分離されたとしも、必ずしも感染症を引き起こしているとは限りません。そのほとんどが保菌ということになります。しかし、血液培養や髄液培養のように無菌組織から得た検体でMDRPが検出された場合には感染症を疑うことになります。
MDRPを保菌している人が好中球減少、免疫抑制剤投与、人工呼吸器装着、熱傷、慢性閉塞性肺疾患のような免疫が低下する状況になると、感染症を発症することがあります。広域抗菌薬を長期投与されることによって、正常細菌叢が死滅し、MDRPが増殖しやすい環境が作り出されても、感染症を発症することがあります。多く見られる感染症は好中球減少患者の敗血症、人工呼吸器関連肺炎、血管内カテーテル由来血流感染症、尿道留置カテーテル由来尿路感染症、重症熱傷患者における感染症などです。