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2020.03.27 領域・分野別

今さら聞けない! 標準予防策 ⑥環境整備 著者:矢野 邦夫

 

環境整備を実施する時、「手指の高頻度接触表面」と「手指の低頻度接触表面」を認識することが大切です。前者はドアノブや電灯のスイッチのようにヒトの手指が頻回に触れるところです。このようなところは、外見上は汚れていないように見えても、ヒトの手指に付着している病原体で汚染している可能性が高いので十分な清掃が必要です。ベッドなどの患者の周囲環境もまた、手指の高頻度接触表面であると認識し、念入りに清掃します。手指の低頻度接触表面は天井や床など手指がほとんど触れない環境表面のことです。そのため、見かけとしては汚れていますが、ヒトの手指に付着している病原体による汚染は少なくなります。

清掃の頻度ですが、手指の高頻度接触表面を重点的に清掃します。テーブルの上やドアノブといったところは1日1~2回は清掃を行って、汚れが蓄積しないようにします。もちろん、その程度の清掃回数では多数の人々が触れる環境表面であることから、すぐに汚染されることでしょう。しかし、触れた後に手指衛生をすればそのような問題は対処できます。

一方、手指の低頻度接触表面については、手指の高頻度接触表面ほどマンパワーとコストを消耗させません。水平表面(ハードフロアの表面など)には定期的な掃除、汚染や漏れがみられた時の掃除、患者退院時の掃除を行います。垂直表面(壁など)は肉眼的に汚れた場合に清掃する程度で十分です。

このような環境表面をどのように清掃すべきかを判断する時もスポルディングの分類(「⑤患者ケアに使用した器材処置」項を参照)が役立ちます。環境表面は無菌組織に触れることはなく、粘膜に触れることもありません。環境表面は健常な皮膚に触れることから、ノンクリティカルに分類されます。したがって、洗浄で対応できるということになります。ただし、多剤耐性菌、クロストリディオイデス・ディフィシル、ノロウイルス、血液が付着している可能性がある時には次亜塩素酸ナトリウム溶液にて消毒します。

病棟や外来のトイレは重点的に清掃すべき環境です。糞便には多剤耐性菌やノロウイルスなどの病原体が含まれているかもしれません。また、便座には多数の人々が腰かけています。便器内に排便する時の跳ね返りが付着することがあります。したがって、便器の便座の表面はこまめに家庭用洗浄剤を用いてふき取るようにします。多剤耐性菌やノロウイルスに感染している患者の個室のトイレでは次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いて消毒します。トイレの手すりも重点的に清掃する環境表面といえます。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。

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編集:東北医科薬科大学医学部感染症学教室 特任教授 賀来 満夫
   東京女子医科大学医学部感染制御科 教授/同大学病院感染制御科 診療部長 満田 年宏
   山形大学医学部附属病院検査部 部長 病院教授・感染制御部 部長 森兼 啓太
   自治医科大学附属病院感染制御部長・感染症科(兼任)科長,自治医科大学感染免疫学 准教授 森澤 雄司


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