◇ST合剤とは
ST合剤は、細菌細胞のDNA合成のために必要な葉酸の合成を阻害するサルファ剤のスルファメトキサゾール(SMX)と抗菌薬のトリメトプリム(TMP)を5対1で配合した内服用の錠剤であり、葉酸合成を2段階で連続的に阻害して相乗的な殺菌作用を示します。また、それぞれの単独投与では耐性が生じやすいのですが、2剤を併用することによって互いの耐性を抑制することが可能となっています。元々は、腸球菌属、大腸菌、赤痢菌等による肺炎、複雑性膀胱炎、感染性腸炎等に適応を有していましたが、2012年にニューモシスチス肺炎(PCP)の治療と予防の適応が承認され、臨床での役割が大きくなっています。内外のガイドラインでもPCPの治療と予防の第一選択薬に位置付けられています。
◇ST合剤の体内動態
内服後の消化管からの吸収は優れていてバイオアベイラビリティも高く、ほとんどの組織に移行します。特に尿路系への移行が高率であり、β-ラクタム系薬がほとんど移行しない前立腺にもよく移行するため、前立腺炎の治療にも使われます。呼吸器組織への移行もよく、PCPの治療と予防の重要な選択肢です。
◇ST合剤の適応菌種と適応疾患、耐性動向
緑膿菌や嫌気性菌には効果がありませんが、投与適応が承認されている菌種は幅広く、腸球菌属、大腸菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフス菌、シトロバクタ―属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア・レットゲリ、インフルエンザ菌が対象です。適応疾患としては、肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染、複雑性膀胱炎、腎盂腎炎、感染性腸炎、腸チフス、パラチフスがありますが、臨床で重要なのはやはり、ニューモシスティス・ジロベシによるPCPです。PCPは、1980年代から増加し始めたヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の例において診断の契機になることが多く、HIV感染症の指標疾患とも言われています。しかし最近では、抗がん剤や生物学的製剤を含む免疫抑制的な薬剤が医療現場で広く使われるようになったため、HIV感染症以外の例でもPCPの発生が増えています。
ST合剤は、元々は耐性化の少ない広域スペクトラムの薬剤と考えられていましたが、薬剤耐性をコードした遺伝子がプラスミド性に拡散し、世界的に耐性の増加が報告され始めています。ただ、施設ごとの耐性状況は大きく異なりますから、それぞれの施設のアンチバイオグラムを参照することが肝要です。
◇ST合剤の副作用
葉酸=ビタミンB9ですが、ヒトの細胞には葉酸合成系がないため、ヒトは腸内細菌が産生する葉酸を利用しています。そのため、ST合剤の服用で腸内細菌の葉酸合成が抑えられてヒトが葉酸欠乏になり貧血を呈することがあります。また、PCPの発症が多いためにST合剤の投与が必要となることの多いHIV患者では皮疹が起こりやすいともいわれます。さらに、頻度は低いものの、重篤なStevens-Johnson症候群が起こったり、骨髄抑制による貧血や血小板減少などを起こしたりすることがあります。
◇まとめ
ST合剤は優れた抗菌薬ですが、頻度は高くなくとも副作用が起こった場合には重篤になりやすく、PCPの治療では他の有効な抗菌薬も揃いつつあること、施設ごとに耐性動向が大きく異なること、などから、他の抗菌薬が無効を示す場合に自施設のアンチバイオグラムを参照しながら選択・投与しましょう。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔出典〕
ヴァンメディカル2023年刊行予定書籍「若手医師のための 困った時の抗菌薬攻略本」(渡辺 彰/著)より