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2022.09.12 病原体

流行中のオミクロン株「BA.5」に、接種が始まるオミクロン株「BA.1」対応ワクチンの効果はあるか? 著者:矢野 邦夫

 

オミクロン株「BA.1」対応ワクチンの接種が始まろうとしています。しかし、現在流行しているのは「BA.5」です。そのため、オミクロン株「BA.1」対応ワクチンが「BA.5」にも効果があるのだろうかと言う疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか?

ファイザー社のオミクロン株「BA.1」対応ワクチンのブースター接種によって、BA.1に対する中和抗体価はブースター接種前に比較して、10倍ほど増加します。BA.4/BA.5 に対してのオミクロン株「BA.1」対応ワクチンの56 歳以上を対象とした研究によると、BA.1 に対する中和抗体に比較して、3分の1ほどの抗体価となりますが、ウイルスを効率的に中和しました(1,2)。

モデルナ社のオミクロン株「BA.1」対応ワクチンについても、BA.1に対しては従来のワクチンに比較して、抗体陰性のブースター未接種の人に対して、優れた反応をしました。そして、BA.4/BA.5については、感染既往のないブースター未接種の人に対して、高い中和抗体を与えることが示されています(3)。

これらのデータによって、オミクロン株「BA.1」対応ワクチンは従来のワクチンに比較して、BA.1のみならず、BA.4/BA.5に対しても抗体価を上昇させることが示されました。

それでは、現在のワクチンの接種を差し控えて、オミクロン株「BA.1」対応ワクチンを接種したほうがよいのでしょうか?今後はオミクロン株「BA.4/BA.5」対応ワクチンも接種できるようになるのですが、オミクロン株「BA.1」対応ワクチンを差し控えて、オミクロン株「BA.4/BA.5」対応ワクチンを接種すべきなのでしょうか?

実は、現在のワクチンであっても、重症化の予防効果は維持されています。オミクロン株に感染しても重症化することを避けることがとても重要です。そのときに利用できるワクチンを迅速にブースター接種して、重症化しないようにすることがとても大切なのです。近い将来に新しいワクチンが接種できるからということで、現在のワクチンの接種を控えることは得策ではないと思います。

(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野邦夫)

〔文献〕
(1)Pfizer and BioNTech Announce Omicron-Adapted COVID-19 Vaccine Candidates Demonstrate High Immune Response Against Omicron
https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-and-biontech-announce-omicron-adapted-covid-19
(2)Swanson K:Pfizer/BioNTech COVID-19 Omicron-Modified Bivalent Vaccine
https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/downloads/slides-2022-09-01/07-COVID-Swanson-508.pdf (Accessed on September 11, 2022)
(3)Miller J:Booster Doses of Moderna COVID-19 Vaccines in Adults, Adolescents & Children. ACIP presentation
https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/downloads/slides-2022-09-01/06-COVID-Miller-508.pdf (Accessed on September 11, 2022)

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「アフターワクチンの新型コロナ感染対策」「感染対策超入門―成功の秘訣」「がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20」「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」「7日間できらりマスター 標準予防策・経路別予防策と耐性菌対策」(以上、ヴァン メディカル刊)など。

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