日本国内では本年6月以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が再び増加し始め、第7波に入ったのではないかと言われています。オミクロン株による流行は本年初め以降、何度か小さなピークを作りながら次第に減ってきたのですが、今回の波は大きくなるかも知れません。今回の流行の主体のオミクロン株のBA.4とBA.5が免疫から逃がれる性質を持っていると言われるからです。こうした変異株に対応するコロナワクチンの効果はどうなのでしょうか?
筆者は前報(1)で、モデルナ社が変異株のベータ株に対応したmRNA-1273.211(以下、ベータ株対応型ワクチン)とオミクロン株に対応したmRNA-1273.214(以下、オミクロン株対応型ワクチン)を、追加接種用の2価ワクチン(先祖株と変異株の双方に対応したmRNAを同量含む)として開発中であること、および前者のベータ株対応型ワクチンを追加接種に用いた試験で抗体価の上昇や高い忍容性が確認されたこと(2)をお伝えしました。今回、後者のオミクロン株対応型ワクチンに関する成績が同社から発表されました(3)。オミクロン株はBA.1からBA.2 —– BA.4、BA.5と変異を重ねていますから、今回の流行の主流になっているBA.4/BA.5に対する効力はどうなのでしょうか?
今回の検討では、2回接種を完了した被験者にオミクロン株対応型ワクチンを50μg追加接種しています。接種から1か月後、COVID-19に感染したことがあるかどうかに関わらず、全ての被験者においてBA.4/BA.5に対する中和抗体価(=ウイルスの増殖を防ぐ抗体の量)が平均5.4倍(95%信頼区間[CI]:5.0~5.9)上昇し、血清反応が陰性(=COVID-19に感染していない)の被験者集団では平均6.3倍(95%CI:5.7~6.9)上昇したといいます。ただ、このBA.4/BA.5に対する中和抗体価は、過去の報告におけるオミクロン株対応型ワクチンの追加接種後のBA.1に対する中和抗体価の約3分の1ということです。
モデルナ社は、今回とこれまでのデータに基づいて米国の規制当局へオミクロン株対応型ワクチンの承認を申請し、早ければこの秋以降に臨床で用いられるようにしたいとしています。この変異株対応型ワクチンの真の実力は、実地臨床でこのワクチンを接種した集団では非接種者集団よりどのくらい感染が少なくなったかを表すワクチン効果で示されることになりますが、毎シーズンの流行株に対応しているインフルエンザワクチンと同様に、新型コロナワクチンでも変異に的確・迅速・安全に対応したワクチンを使っていきたいものです。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)渡辺 彰:追加接種のワクチンは『変異株対応型』であるべし.感染対策Online 2022年4月29日 https://www.kansentaisaku.jp/2022/04/3786/
(2)Chalkias S, et al:Safety, immunogenicity and antibody persistence of a bivalent beta-containing booster vaccine. Research Square. 15 Apr, 2022. DOI: https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1555201/v1
(3)Moderna inc.:Moderna announces bivalent booster mRNA-1273.214 demonstrates potent neutralizing antibody response against omicron subvariants BA.4 and BA.5. June 22, 2022. https://s29.q4cdn.com/435878511/files/doc_news/Moderna-Announces-Bivalent-Booster-mRNA-1273.214-Demonstrates-Potent-Neutralizing-Antibody-Response-Against-Omicron-Subvariants-BA.4–DQBD7.pdf