今、成人~高齢者に必要なワクチンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンの4つであり、前者ほど社会防衛、後者ほど個人防衛の意義が大きい、と考えます。しかるに、帯状疱疹ワクチン接種者ではCOVID-19の感染や入院が非接種者に比し有意に少ないという報告があります。
Bruxvoortら(1)は、南カリフォルニアの医療ケアグループ(Kaiser Permanente)に登録されている50歳以上で乾燥組み換え帯状疱疹ワクチン(RZV)を1回以上接種した149,244名と、性別・年齢・その他の背景因子をマッチさせた非接種者298,488名の間で、2020年3月~12月の10か月間にCOVID-19の検査陽性並びに入院した数を比較しました。RZV接種者は非接種者に比べ、COVID-19検査陽性者数と入院者数が有意に少なくて16%並びに32%減少しており、2回接種者ではさらに有意に減少していました。
弱毒生水痘帯状疱疹ワクチン(LAZV)ではMerzonら(2)が、イスラエルの医療データベースのLHS(Leumit Health Services)に登録されている約72万名中のCOVID-19検査を施行した約20万名から、LAZVの接種者625名と、性別・年齢・その他の背景因子をマッチさせた非接種者5,625名を抜き出し、検査陽性や入院を比較しています。COVID-19検査陽性者は接種者5.4%対非接種者13.4%で有意差があり、入院も同じく0.16%対0.37%で有意差がありました。検査陽性のオッズ比は接種1年後が0.17で、4年以上経過した後でも0.55と高い効果です。
同じ弱毒生ワクチンであるBCGでも同様の成績が多数報告されています。Escobarら(3)は、BCG接種を継続している国々と中止あるいは未実施の国々との間のCOVID-19の死亡率には有意な開きがあり、継続している国々では死亡率が低いと報告しています。また、1998年にBCG接種を中止したドイツでは、旧東ドイツは免疫原性が強いとされる株(日本と同じ株)を、旧西ドイツが免疫原性の弱い株を使っていましたが、死亡率に3倍近い有意の開きがあって旧東ドイツは低い死亡率でした(3)。
BCGワクチンには以前から、結核菌以外の病原体に対する免疫効果が知られており、これをオフターゲット効果と呼んでいます。帯状疱疹ワクチンでも同様の効果があるようであり、弱毒生ワクチンにその傾向が強いようです。それに対して、COVID-19に対するmRNAワクチンなどはピンポイントに標的を絞った誘導ミサイル型ワクチンと言えそうですが、いずれにしても、必要とされているワクチンは可能な限り接種しておくほうが安全と言えるようです。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)Bruxvoort KJ et al:Recombinant adjuvanted zoster vaccine and reduced risk of COVID-19 diagnosis and hospitalization in older adults. medRxiv preprint (posted Oct.3 2021) doi: https:/doi.org/10.1101/2021.10.01.21264400
(2)Merzon E et al:The association of previous vaccination with live-attenuated varicella zoster vaccine and COVID-19 positivity: An Israeli population-based study. Vaccines 10, 74, 2022
https:/doi.org/10.3390/vaccines10010074
(3)Escobar LE et al:BCG vaccine protection from severe coronavirus disease 2019 (COVID-19). PNAS 117(30):17720-17726, 2020