オミクロン株による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では若年者の発症が目立ちます。米国では子どもの発症や入院も増えており、日本でもその兆候が見られます。現行のコロナワクチンの成人への追加接種はオミクロン株に対して一定の防御効果があります(1)が、日本では12歳未満の子どもへの初めての接種が3月以降に始まる見込みとなってきました。有効かつ安全なのでしょうか?
米国では2021年10月29日、米国食品医薬品局(FDA)が5~11歳児に対するファイザー社製のコロナワクチンBNT162b2の接種を緊急承認しました。その大きな判断材料は、同ワクチンの10μg(成人の1/3量)を用いた5~11歳児を対象とするラセボ対照の第Ⅱ、第Ⅲ相臨床試験の成績(2)です。2,268例が2対1で無作為に割り付けされ、21日の間隔で2回目の接種から1か月後の中和抗体価は16~25歳群と同等であり、2回目接種後7日以降のCOVID-19発症の予防効果(ワクチン効果)も90.7%という成人同様の高いものでした。
米国疾病管理予防センター(CDC)は2021年12月末、5~11歳児における接種に安全上の大きな懸念はないと報告しました(3)。2021年11月3日~12月19日の約870万回の接種の副反応報告を解析しての結論です。医療従事者からは4,249件の報告があり、年齢中央値が8歳、男女比はほぼ同じであり、そのほとんど(97.6%)は注射部位の痛みや一過性の倦怠感、頭痛などの軽い有害事象でした。深刻とされた有害事象は100件あり、61%対39%で男児に多く、発熱29件、嘔吐21件、トロポニンの上昇(≒心筋炎を示唆)が15件、その他に発疹やけいれんがありました。死亡は5歳と6歳の女児の2例があったものの、元々の健康状態が不良で、ワクチン接種との因果関係は証明されなかったとのことです。
ワクチン接種を受けた本人や保護者からの報告は42,504件あったものの、内容はほぼ同じであり、医療を要したのは1.1%、入院に至ったのは0.02%とのことでした(3)。なお、ワクチン接種後の心筋炎は若年成人や10歳代でも稀ながら報告されていますが、軽症かつ短期間で軽快しており、COVID-19を発症した場合の心筋炎併発よりはるかに低い頻度(4)ですから、子どもへの接種を妨げるものとは言えません。安心してワクチン接種を受け、自分と周囲のCOVID-19感染を防ぐようにしましょう。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)渡辺 彰:急拡大中で高齢者では重症化し易いオミクロン株に対してワクチンの追加接種は有効か? 感染対策Online, 2022年1月17日, https://www.kansentaisaku.jp/2022/01/3529/
(2)Walter EB et al:Evaluation of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Children 5 to 11 Years of Age. New England J Med. Nov 9,2021. DOI:10.1056/NEJMoa2116298.
(3)Hause AM et al:COVID-19 vaccine safety in children aged 5-11 years ― United States, November 3-December 19, 2021. Morb Mort Weekl Rep 70:1755-1760, 2021(Dec 31).
(4)Singer ME et al:Risk of Myocarditis from COVID-19 Infection in People Under Age 20: A Population-Based Analysis. medRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2021.07.23.21260998