新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの接種を完了した人の一部に見られるブレークスルー感染や変異型ウイルスの増加、接種後の中和抗体価の経時的な低減などに対処するため、ブースター接種(追加接種)が世界的に議論されています。ブレークスルー感染のリスク因子は、虚弱な高年者、高年者よりも若年者、貧困層、肥満などが挙げられています(1)が、我が国では年内にも医療従事者から3回目の追加接種が始まります。
一方で、世界的には追加接種に対して懐疑的な論調もあります。Krauseら(2)は、変異株に対する現行ワクチンの効果はさほど下がっておらず、先進国で追加接種を行うより、むしろ、ワクチン接種が遅れている発展途上国へワクチンを配分し、COVID-19の蔓延を世界的規模で抑える方が変異株出現のリスクを減らす近道である、と述べています。接種体制の構築を含めたワクチン接種パッケージの供給なども加味して検討すべき課題ですが、「ワクチン接種が行き渡った後には追加接種をどう考えるか?」という問題は必ず出てきますから、今から検討しておくべきです。
こうした中、ワクチン接種完了者に起こるブレークスルー感染を追加接種が大きく抑えるという報告が出ました。2021年6月以降にデルタ株の流行が拡大し始めたイスラエルでは、2021年7月30日から、5か月以上前に2回接種を完了した60歳以上を対象に、1、2回目と同じファイザー社製ワクチンの3回目の接種を始めました。Bar‑Onら(3)は、同国の保健省のデータベースを用い、8月31日までの1,137,804例を解析しています。3回目の接種後には、2回のみの接種者に比べて感染が約91%減少し、重症化が約95%減少、また、3回目接種後の4~6日経過群の感染率に比べて、12日以上経過群の感染率はその18.5%まで低下しました。
この報告は、デルタ株が蔓延し始めた時期の検討ですから、変異株に対するワクチンの追加接種の効果を検証した意義が大きいと言えます。ただし、現行のワクチンの効果が大きく低下する新たな変異株が出現する可能性もあり、その際にはそうした特定の株を標的とする新たなワクチンを開発する必要があります。ちょうど、インフルエンザに対するワクチンが毎年変更されているのと同じような態勢をとることになりそうです。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)Antonelli M et al:Risk factors and disease profile of post-vaccination SARS-CoV-2 infection in UK users of the COVID symptom study app: a prospective, community-based, nested, case-control study. Lancet Infect Dis, published online, Sept 1, 2021
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(21)00460-6/fulltext
(2)Krause PR et al:Considerations in boosting COVID-19 vaccine immune responses. Lancet, published online, September 13, 2021
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)02046-8
(3)Bar‑On YM et al:Protection of BNT162b2 vaccine booster against COVID-19 in Israel. New Engl J Med, published online, Sept 15, 2021, DOI: 10.1056/NEJMoa2114255