「物忘れした」「忘れ物がある」「うっかりして忘れた」などということは日常的なことです。同僚や上司の名前を忘れることもあるかもしれません。ほとんどの忘れ事はダメージが少ないのですが、「クレジットカード入りの財布をどこかに忘れた」「スマートフォンを喫茶店や街中のどこかに忘れた」などというのは大変なことになります。それでは、「患者が伝播力の強い感染症に罹患していることを忘れて、病室に立ち入った」というのはどうでしょうか? 「伝播力の強い感染症であることを知らずに病室に入ってしまった」ということもあるかもしれません。このような状況では、室内に立ち入った人が感染してしまう危険性があります。そうならないように感染対策を強化することになります。標準予防策のみでは対応が不十分であれば、感染経路別予防策を加えるのです。
臨床現場では標準予防策が実施されており、必要に応じて個人防護具を着用します。しかし、「うっかり着用を忘れた」「面倒だから、着用しなかった」などという状況はありえます。そのような状況を避けるために特定の感染症に罹患した患者の病室に入室するときには、医療従事者は個人防護具を必ず着用するようにします。それが感染経路別予防策です。感染経路別予防策には接触予防策、飛沫予防策、空気予防策があります。接触予防策ではガウンと手袋、飛沫予防策ではサージカルマスク、空気予防策ではN95マスクを着用して入室します。感染経路別予防策は単独で実施するのではなく、標準予防策に加えて行われます(1)。
〔文献〕
(1) CDC:2007 Guideline for isolation precaution: Preventing transmission of infectious agents in healthcare setting.
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/isolation-guidelines-H.pdf
(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野 邦夫)
【掲載】
2021年10月刊行新刊書籍「感染対策超入門―成功の秘訣」(矢野邦夫 著,ヴァンメディカル刊)より
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