感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
運営会社: Van Medical
2021.08.20 病原体

抗体カクテル療法「ロナプリーブ」の効果―予防投与にも展望あり! 著者:渡辺 彰

 

2021年7月19日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の4番目の治療薬としてロナプリーブが特例承認されました。本薬は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する2種類の中和モノクローナル抗体(カシリビマブ、イムデビマブ)を組み合わせ、COVID-19に対する治療および予防を目的として米国のジェネロン・ファーマシューティカルズ社が開発したものです。米国では2020年11月、軽度~中等度のCOVID-19外来患者の治療薬として緊急使用が承認されました。

我が国では、COVID-19患者の軽症~中等症で重症化リスクのある入院例への投与が原則とされましたが、承認以降、患者の激増に伴って入院の困難な例が増えているため、医師・看護師を配置したホテルなどの宿泊療養施設などでの投与も認められました。その効果や投与適応の範囲を含めた将来の展望はどうなのでしょうか?

基礎的な検討では、本薬はアルファ株やデルタ株を含むSARS-CoV-2に対して強い中和能力を示し、ヒトへの投与で高い中和抗体価が得られるとされています(1-3)。臨床試験は発症後7日以内の比較的早期のCOVID-19の外来患者を対象に行われ、プラセボ投与群に対して本薬の静脈内への1,200㎎および2,400㎎投与群で入院または死亡のリスクが70.4%および71.3%減少すると共に、ウイルス量の迅速な低減と有症状期間の短縮が見られたと報告されています(4,5)。

予防目的の臨床試験も行われています。O’Brienら(6)は、SARS-CoV-2感染者との接触後96時間以内の12歳以上の家族を対象に、REGEN-COV(本薬の米国での製品名)の1,200mgの単回皮下注群とプラセボ投与群とに無作為に1対1に割り付け、28日後までの症候性COVID-19の発症を比較しました。REGEN-COV群の発症は1.5%(11例/753例)、プラセボ群では7.8%(59例/752例)と有意差があり、特に8~28日後の発症は「0.3%(2例/753例)」対「3.6%(27例/752例)」と大きな開きがありました。発症者の間でも、REGEN-COV群では症状消失までの期間やウイルス排出の期間がほぼ1/3に短縮されており、懸念すべき安全上の問題も認められていません。

我が国で承認されたCOVID-19の治療薬は、サイトカインストームなどを起こしている重症例への投与適応が主であり、軽症例を含めた適応を持つ治療薬はほぼ初めてです。米国とは違って本薬の投与適応には大きな制限がありますが、単回投与という利便性もあり、製品供給が潤沢かつ円滑になれば、治療目的の投与だけでなく、無症状の濃厚接触者の発症を予防する大きな一つの手段となり得る可能性があります。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Baum A et al:Antibody cocktail to SARS-CoV-2 spike protein prevents rapid mutational escape seen with individual antibodies. Science 369:1014-1018, 2020
(2)Wang P et al:Antibody resistance of SARS-CoV-2 variants B.1.351 and B.1.1.7. Nature 593:130-135, 2021
(3)Copin R et al:The monoclonal antibody combination REGEN-COV protects against SARS-CoV-2 mutational escape in preclinical and human studies. Cell 2021 June 5 (Epub ahead of print)
(4)Weinreich DM et al:REGN-COV2, a neutralizing antibody cocktail, in outpatients with Covid-19. N Engl J Med 384:238-251, 2021
(5)Weinreich DM et al:REGEN-COV antibody cocktail clinical outcomes study in Covid-19 outpatients. June 6, 2020, preprint
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.05.19.21257469v2
(6)O’Brien MP et al:Subcutaneous REGEN-COV antibody combination to prevent Covid-19. N Engl J Med. 2021 Aug 4 (Epub ahead of print)

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

一覧へ戻る
関連書籍・雑誌
感染と抗菌薬 Vol.24 No.1 2021 特集:経験に学ぶCOVID-19診療―見えてきた日本の治療指針

編集:
東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
帝京大学医学部微生物学講座 主任教授 斧 康雄
国立病院機構東京病院感染症科部長 永井 英明


2021年3月刊

感染と抗菌薬 Vol.24 No.2 2021 特集:Withコロナ感染症診療―Afterコロナを見据えて

編集:
東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
帝京平成大学健康メデイカル学部 教授・副学長/帝京大学医学部 名誉教授
国立病院機構東京病院感染症科部長 永井 英明


2021年6月刊

バスケットボールのケガ―メカニズム・治療・リハビリ・予防

◆スポーツドクターが解説。これまで無かった! 選手・指導者に向けた『バスケットボール』の『ケガ』の本!!
◆「急いで競技復帰して、捻挫癖がついた。違和感が残った。」誰もが経験したケガへの間違ったアプローチは、本書を読めば必ず正すことができます。
◆適切な治療・リハビリができれば、復帰後のパフォーマンス・競技人生が全く違います。
◆中学・高校・大学のバスケ部員、指導者、ミニバスの保護者など、バスケを愛する人に必携の一冊です。

亀田メディカルセンター スポーツ医学科 部長代理 服部惣一 著
2021年7月刊