日本では現在、新型コロナウイルス感染症の流行株のほとんどがアルファ株(英国型変異株、B.1.1.7変異株)に置き換わる勢いです。アルファ株は、2020年11月に英国で発見され、最初に流行した野生株と比べて感染力が強いために優勢になりましたが、重症化しやすいことを示唆するエビデンスはあったものの、詳細は不明でした。今回、アルファ株では野生株より入院のリスクが高く、それが30歳以上に顕著であることが英国の研究で初めて分かりました。
Nyberg Tら(1)は、2020年11月23日~2021年1月31日の間に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR陽性が確認され、かつ、B.1.1.7変異の有無が検査された83万9,278例を対象に、入院記録と検査記録を個々に照合しながら、陽性判定日、入院の有無、年齢、性別、民族、経済状態、居住地域を調査しました。この84万例弱の内、3万6,233例は陽性判定日から14日以内に入院しており、この14日以内の入院を主要な評価指標としています。
14日以内の入院は、変異なしの24万6,869例中8,523例(3.5%)に対して、変異ありの59万2,409例では2万7,710例(4.7%)であり、時間の経過(スピード)を加味した指標であるハザード比は、変異あり群が変異なし群に対して1.52(95%信頼区間 1.47~1.57)でした。つまり、アルファ株では入院のリスクが有意に高いということです。また、このハザード比は年齢増加に伴って有意に上昇し(P<0.001)、10歳未満では0.93、10~20歳では1.21、20~29歳では1.29、30歳以上ではどの年齢層でも1.45~1.65に分布していました。これは、特に30歳以上で入院リスクが高いことを示しています。なお、14日以内の死亡は、変異あり群で911例(0.15%)、変異なし群で399例(0.16%)であり、差はありませんでした。
アルファ株の感染力が強いことはわかっていましたが、入院のリスクも高いこと、それが30歳以上の年齢層で顕著であることが今回の解析でわかりました。コロナワクチンは、2回接種でアルファ株にも効果はある(2,3)ものの、マスクや手洗い、三密回避に始まる基本的な感染対策は以前にも増して重要です。また、感染力がさらに強いためにアルファ株を駆逐しそうなデルタ株(インド型変異株)についても、その入院や死亡のリスクに関する詳細な解析が待たれます。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)Nyberg T et al:Risk of hospital admission for patients with SARS-CoV-2 variant B.1.1.7: cohort analysis. BMJ 373: n1412, 2021
https://doi.org/10.1136/bmj.n1412
(2)Emary KRW et al:Efficacy of ChAdOx1 nCoV-19 (AZD1222) vaccine against SARS-CoV-2 VOC 202012/01(B.1.1.7). Preprints with the Lancet.
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3779160
(3)Abu-Raddad LJ et al:Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 vaccine against the B.1.17 and B.1.351 variants. N Engl J Med, May. 5 2021. DOI: 10/1056.NEJMc2104974.