感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
運営会社: Van Medical
2021.06.28 病原体

アルファ株(英国型変異株)は30歳以上で入院のリスクが高い 著者:渡辺 彰

 

日本では現在、新型コロナウイルス感染症の流行株のほとんどがアルファ株(英国型変異株、B.1.1.7変異株)に置き換わる勢いです。アルファ株は、2020年11月に英国で発見され、最初に流行した野生株と比べて感染力が強いために優勢になりましたが、重症化しやすいことを示唆するエビデンスはあったものの、詳細は不明でした。今回、アルファ株では野生株より入院のリスクが高く、それが30歳以上に顕著であることが英国の研究で初めて分かりました。

Nyberg Tら(1)は、2020年11月23日~2021年1月31日の間に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR陽性が確認され、かつ、B.1.1.7変異の有無が検査された83万9,278例を対象に、入院記録と検査記録を個々に照合しながら、陽性判定日、入院の有無、年齢、性別、民族、経済状態、居住地域を調査しました。この84万例弱の内、3万6,233例は陽性判定日から14日以内に入院しており、この14日以内の入院を主要な評価指標としています。

14日以内の入院は、変異なしの24万6,869例中8,523例(3.5%)に対して、変異ありの59万2,409例では2万7,710例(4.7%)であり、時間の経過(スピード)を加味した指標であるハザード比は、変異あり群が変異なし群に対して1.52(95%信頼区間 1.47~1.57)でした。つまり、アルファ株では入院のリスクが有意に高いということです。また、このハザード比は年齢増加に伴って有意に上昇し(P<0.001)、10歳未満では0.93、10~20歳では1.21、20~29歳では1.29、30歳以上ではどの年齢層でも1.45~1.65に分布していました。これは、特に30歳以上で入院リスクが高いことを示しています。なお、14日以内の死亡は、変異あり群で911例(0.15%)、変異なし群で399例(0.16%)であり、差はありませんでした。

アルファ株の感染力が強いことはわかっていましたが、入院のリスクも高いこと、それが30歳以上の年齢層で顕著であることが今回の解析でわかりました。コロナワクチンは、2回接種でアルファ株にも効果はある(2,3)ものの、マスクや手洗い、三密回避に始まる基本的な感染対策は以前にも増して重要です。また、感染力がさらに強いためにアルファ株を駆逐しそうなデルタ株(インド型変異株)についても、その入院や死亡のリスクに関する詳細な解析が待たれます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Nyberg T et al:Risk of hospital admission for patients with SARS-CoV-2 variant B.1.1.7: cohort analysis. BMJ 373: n1412, 2021
https://doi.org/10.1136/bmj.n1412
(2)Emary KRW et al:Efficacy of ChAdOx1 nCoV-19 (AZD1222) vaccine against SARS-CoV-2 VOC 202012/01(B.1.1.7). Preprints with the Lancet.
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3779160
(3)Abu-Raddad LJ et al:Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 vaccine against the B.1.17 and B.1.351 variants. N Engl J Med, May. 5 2021. DOI: 10/1056.NEJMc2104974.

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

一覧へ戻る
関連書籍・雑誌
感染と抗菌薬 Vol.24 No.1 2021 特集:経験に学ぶCOVID-19診療―見えてきた日本の治療指針

編集:
東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
帝京大学医学部微生物学講座 主任教授 斧 康雄
国立病院機構東京病院感染症科部長 永井 英明


2021年3月刊

感染と抗菌薬 Vol.24 No.2 2021 特集:Withコロナ感染症診療―Afterコロナを見据えて

編集:
東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
帝京平成大学健康メデイカル学部 教授・副学長/帝京大学医学部 名誉教授
国立病院機構東京病院感染症科部長 永井 英明


2021年6月刊

うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15

◆感染対策ポータルサイト「感染対策Online Van Medical」で2020年6月~7月に連載し,大好評を得た新型コロナうっかり間違いシリーズに,加筆・修正を加えついに待望の書籍化!
◆「レジのビニールカーテン」や「ランニング時のマスク」など,日常生活の新型コロナ感染対策の間違いを“感染対策のエキスパート”がわかりやすく解説。
◆さらに,書籍のみ収録のコンテンツ「新型コロナ感染対策の正解15」で,より理解を深められ,いつでも確認できる構成! コロナ禍を生きる人々に,今,最も必要とされる一冊!!

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2020年9月刊